重なったマッキントッシュと
「新版画」のコンセプト

 そのうえで、スカリーさんはジョブズが発した言葉を口にした。

「日本の版画は職人たちの分業で作られると思っていたんだ。でも、新版画は、絵師が彫り師や摺り師を通じて自己表現したものだったんだ。これこそまさに、マッキントッシュの技術で僕たちがやろうとしていることなんだ!」

 そういうことだったのか!スカリーさんの答えに思わずうなった。

 言葉の1つひとつが、僕の胸にストーンと落ちた。ジョブズと新版画との結び付きを解き明かす、もっとも腑に落ちる言葉だった。

 この言葉を聞くために、僕はずっと取材を続けてきたんだ!

 ジョブズと日本文化との結び付きを解き明かすため、彼のカギカッコと一次情報を取材しようと、彼と接触した人を探し出しては直接話を聞き出し、太平洋を越えてスカリーさんにたどり着くまで、8年。まさにいま、その取材のすべてが報われようとする思いだった。

 僕はこれまでの取材で、ジョブズが新版画に感じた魅力は「シンプルさ」にあるのではないかと考えていた。親友ビル・フェルナンデス(編集部注/1977年にApple Computerの最初の従業員となる)の母親がしつらえた和風のリビングに飾られていた新版画がジョブズの美意識の原点となり、その後、禅に通じる素地になったのではないかと考えていた。

 しかし、それだけではなかったのだ。新版画は、1人の絵師が、彫りから摺りまで細かく指示をしながら、すべての工程に関わって「自己表現」をする。絵師の創作意図が最後まできちんと伝わる工程になっている。

 誰もが、その絵師のように、自分の作りたいものを思い描き、形作り、実現する。誰もが、自己表現できる世界をつくる。

 それこそが、ジョブズが思い描いた理想だった。新版画は、マッキントッシュの理念そのものだったのだ!

大切なマッキントッシュ発表の場で
「髪梳(す)ける女」が映し出された

 1人の絵師がすべての工程に関わって自分の表現を目指す。コンピューターで革命を起こそうとしたジョブズは、新版画の「自己表現」に深く共感し、マッキントッシュのコンセプトを重ね合わせていた。