「困難に遭遇したときにこそ団結し、その困難を打ち破ろうと思っていた社員の人たちまでが、リーダーが怯(ひる)んだのを見た瞬間に、逃げの手を打とうとします」
「つまり、リーダーに勇気にもとることがあったときには、部下は皆それに倣って、困難を解決するどころか、困難を回避しようとする。その結果、それまで順調にいっていた仕事までがうまくいかなくなります。そういうリーダーでは、部下が尊敬しなくなるのです」
「これは何もトップだけの問題ではありません。部長を選ぶにしても課長を選ぶにしても、卑怯(ひきょう)な振る舞いのある人、つまり言い訳をしたり、逃げ回ったり、責任転嫁をするような人を要職につけてはならないのです。それは組織が腐敗するもとになります」(稲盛和夫著『誰にも負けない努力 仕事を伸ばすリーダーシップ』(PHP)、初出:1993年8月26日「盛和塾」札幌塾長例会)
困難から逃げる人間に
部下を預けられない
ここで稲盛が断罪しているのは、厳しい上司ではない。逃げる上司である。困難から目を背け、言い訳と責任転嫁でその場をしのぐ人間。そういう者に部下を預ければ、組織はその一点から腐る。
稲盛が「絶対に部下を持たせてはならない」と言い切ったのは、能力の低い人間ではなく、卑怯な人間だった。決定的な特徴は、技量の不足ではない。ただすべきをたださない逃げ腰にある。
この見立てを、現代の組織研究が思いがけない形で裏づけている。2024年に学術誌Journal of Business Ethicsに掲載された、大規模なメタ分析がそれだ。
メタ分析とは、世界中の個別研究を統計的に束ね、ひとつの結論を導く手法である。単発の調査が抱える偶然や偏りを打ち消せるため、現時点で最も信頼性の高い証拠の形とされる。
この研究は、82本の論文に含まれる104件の追跡調査、のべ3万314人分のデータを統合した。しかも一時点のアンケートではなく、時間を空けて同じ対象を何度も測る縦断的・パネル型の設計だけに絞っている。見かけの相関を排し、時間の流れのなかで何が何を引き起こすのかを見ようとした、骨太の研究である。







