「僕も実は隣の信州から来たよそ者で、ここは民権運動が盛んなのでやって来たんです。来年の国会開設に向けて、国会議員の選挙が行われるのですが、15円以上の納税をした者にしか選挙権がないんです。そんなのは間違っている、と」。思わず声に熱が帯びてしまう横沢。

 ちなみにこの15円の税金は年額だ。りんの病院勤務時代の月給が10円だったことを思えば、限られた人にしか届かない要件だったことは想像できる。

当時は…明治の庶民と女性に認められなかった「ある権利」〈風、薫る第79回〉

「正しい社会とは何ですか」

国税庁のサイトには当時の税金と選挙についてこのような記述がある。

“明治憲法が発布され、第1回衆議院議員総選挙が明治23年に実施されました。
 このときの有権者は、満25歳以上の男子で、直接国税15円以上を納税している者に制限されていました。”
直接国税とは?
“地租と所得税です。明治23年当時、国税収入に占める地租の割合は約60%、所得税は1.7%程度でした。所得税が導入されたのは明治20年ですが、このときの所得税はまだ補助的な税と位置付けられています。
 その後、明治29年から営業税が加わります。大正14年、いわゆる普通選挙法が公布され、納税要件は撤廃されます。ちなみに、普通選挙法による最初の選挙は、昭和3年2月の第18回総選挙です。”

 納税要件は撤廃されたが、女性の選挙参加は認められなかった。女性参政権が法的に認められたのは1945年(昭和20年)。女性が初めて投票した衆議院議員総選挙は1946年だった。

 そう、このとき、りんには選挙権がない。もし15円納税したとしても女性は選挙ができなかった。横沢との会話で、女性は選挙権がないということに言及しないのは、なくて当然と思っているからであろうか。横沢との会話で、りんが食いつくのは、そこではない。

「私もずっと正しくいたいと思ってきましたけど。考えれば考えるほど、何が正しくて、何が間違ってるのか分からなくなるときがあって」とりん。

「子のたまわく、過ちて改めざる、これこそ過ち」

 父・信右衛門(北村一輝)に教わった言葉を大事にしてきたりん。みんな大好き、孔子の『論語』にある言葉である。

 間違ったことをしたとき、反省して改めないことこそ過ちであるということ。人は皆、間違うものだから、間違ったことを責めるのではなく、間違いを認めないことこそ責められるべきだ。

 それを座右の銘にしているわりにりんはちょっと間違いが多い気がするのは、反省を免罪符にしているのではないか。いや、そんな主人公批判はさておこう。

 りんは横沢に問う。

「正しい社会とは何ですか」

 おお、これは、「看護とは何ですか」の「看護」を「社会」に置き換えている。横沢は言葉に詰まる。

 はっきりした答えが出せない、難しい問いかけをしたりんを気に入った横沢。西洋で親愛の情を伝えるときに行う握手をしようと手を伸ばす。りんはまた笑顔の面をつけたような顔になる。