当時は…明治の庶民と女性に認められなかった「ある権利」〈風、薫る第79回〉

今度の病人は、瑞穂屋の文

 井上祐貴は、『ウルトラマンタイガ』(19年)で主演している、ウルトラマン俳優。一度、正義のヒーローを演じた俳優は、そのイメージを踏襲し続けるか、俳優として全く違う印象の役にも意欲を見せるか、いろいろな選択肢がある。

 井上の場合、ヒーローのイメージにとらわれず、様々な役を演じている。例えば、朝ドラ『虎に翼』で演じたのは、主人公・寅子(伊藤沙莉)の内縁の夫・星航一の連れ子・朋一。成績優秀で法律家になるが、あるきっかけから家具職人に転身するという飛躍を見せるユニークな役だった。

 大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺』では松平定信役。主人公・蔦重(横浜流星)たちの活動を取り締まる老中という役割を担っていたが、老中を辞めたあとは蔦重たちに味方する。敵役かと思ったら意外な変化を見せ、注目された。

 シンプルな正義一本押しのようなキャラではない役を演じてきた井上、今回の横沢はいまのところ、まっすぐ正義なキャラのようにも見えるが、さて?

 場面が変わって、東京。瑞穂屋。文(内田慈)がドイツの客と握手している。

「ドイツのお客様は、大抵握手が強い」と、たまたま店に来ていた直美(上坂樹里)に説明していると、急に体調が悪くなって――。

 看護婦である直美は成り行きで文を看病する。

 直美が水を汲んでいると文のご近所さんが気にしている。エキストラへの芝居のつけ方が細かい。今週は画づくりに手間暇をかけている。

 文の住居は、外側はごく普通の当時の和風の家だが、中はちょっと洋風に飾られている。畳にじゅうたんが敷いてあり、隅をカーテンで仕切ってコーナーを分けている。

 直美が問診し「かなり痛いのでは?」と聞くと「感じ方は人それぞれですから」と明らかに我慢しているのがわかる。文は以前より痩せて見える。

 直美は心配して医者に診てもらうことをすすめるが、文もトヨ(松金よね子)のように医者にいきたがらない。借金があるという。

 さらに「長生きしたいとも思いませんし、する必要もありませんから。ご覧の通り、私には生きてくれという家族はいませんから、私の望みはつつがなく暮らし、何にも残さず、きれいさっぱり人生を終えること」と持論を語る。

 ごちそうや着るものにお金も運も使ったらもったいないと考えている。文はいまでいうミニマムな暮らし実践者である。単身高齢者は増えている現代では極めて興味深い人生論だ。

「人の運の量は決まっているらしいですよ」

 そういう文に直美は、本当に望みがないのかと粘る。

「1人でゆっくり寝たい」
「私よりへそ曲がりの人に初めて会いました」

 長く一人で生きてきただけあって、文は一筋縄ではいきそうにない。

『風、薫る』を見ていると、お金の問題とは別に、素直じゃない性格は治癒を困難にすることもあるように感じる。

当時は…明治の庶民と女性に認められなかった「ある権利」〈風、薫る第79回〉