なお、両俳優と制作側の契約形態は公表されておらず、厚労省の労働者向けパワハラ指針が法的に直接適用されるかは明らかではない。業務委託であれば、フリーランス法上のハラスメント対策が問題となる可能性もある。

 確かに俳優のキャリアは一般のビジネスパーソンとは違い判断が難しいところがある。ただ、佐藤のほうが27歳も年長であることには注意が必要であろうし、「役者を続けるべきではない」とまで言える相手であったことが、逆説的に「優位性があった」ようにも見える。

 少なくとも、過去の共演歴がないことだけをもって「優位性がない」と直ちに結論づけられるのかは疑問が残る。

 厚労省の指針では、ハラスメント防止のための措置について、相談窓口の周知や窓口担当者の適切な対応、事実関係の迅速な把握と、配慮のための措置、さらに相談者・行為者のプライバシーの保護などを事業主に対して義務として求めている。

泥沼トラブルの教訓

 しかしこれらの措置を文章で確認するのは簡単だが、現場で実践することには困難があり、その困難が如実に表れたのが今回のケースだと感じる。

 今回の経緯からビジネスパーソンが学ぶべきなのは、ハラスメントを「悪意があったか」「どちらが悪かったか」だけで判断してはいけないということだ。

 本人に威圧する意図がなくても、立場や経験、年齢、現場での発言力に差があれば、相手は反論や拒絶をしにくいことがある。問題は言動が業務上必要な範囲を超えていなかったか、相手の就業環境を害する結果にならなかったかである。

 同時に、当事者の訴えがあったからといって、直ちに一方を加害者と決めつけることも適切ではない。

 組織に求められるのは、当事者同士に解決を委ねることでも、善意や常識に頼ることでもない。双方から丁寧に事実を聞き取り、立場の差や言動の影響を客観的に検証し、必要なルールを設定することだ。

 ハラスメント対策とは、悪人を見つけて処罰するためだけの仕組みではない。認識のズレや力関係が深刻な被害に発展する前に、組織が介入し、安心して働ける環境を守るための仕組みづくりなのである。