発端は、2015年の「ディーゼルゲート」事件だった。ディーゼル車の排ガス検査やソフトウェアに関する不正が、約1100万台も露呈した。この時、VWは一気に「EVシフト」を宣言したが、それも裏目に出た。

 さらに、トップシェアを維持してきた中国で完全に潮目が変わったことも大きい。メルケル首相時代のドイツと中国政府の蜜月関係から、政治的バックアップもあって中国での存在感が高かったものの、メルケル政権が21年末に終焉した時を同じくして、中国新興メーカーの台頭が始まった。VWの今年1~6月の中国販売は、前年同期比26%減の97万台と大幅に落ち込み、現地企業と競り負けていることがわかる。

 そんなVWが進めようとしている大リストラは、例えば日産自動車のリストラとはまた異なるものだ。まず、人員や工場数など規模感が圧倒的に大きい。そして「難しさ」もある意味で世界トップクラス。VWの工場は、現地州政府が株式の20%を保有し、かつ強力な労働組合の存在がある。日本の自動車メーカーとはまた違う独特な組織のため、それが構造改革の足かせとなっている。

 一方のトヨタの近況と経営方針もまとめておこう。これは、4月1日に新社長に就任した、近健太氏の発言(決算発表時)を借りるとわかりやすい。

「トヨタはここ10年ほど『グローバル・フルラインアップ』にこだわり『商品』と『地域』を軸とする経営を進めてきた。今後もカーボンニュートラルを目指す。トヨタに求められる経営は、持続的成長だ」

 26年3月期決算は、売上高50兆6849億円、営業利益3兆7662億円、純利益3兆8480億円を計上。米トランプ関税の影響で減益となったが、世界販売は1047万台で首位。ハイブリッド車が初の500万台超えとなった。

 いわゆる全方位戦略が奏功しているのだが、これを印象付けるきっかけとなったのが、豊田章男会長の発言だ(21年9月、当時の日本自動車工業会の会見にて)。

「敵は炭素、内燃機関ではない」「EVは脱炭素の重要な解決策のひとつだが、唯一の選択肢にはならない」「選択肢を広げるのは、日本の雇用と命を背負っているから」

 要するに、トヨタは日本の自動車産業を背負っていて、全体の利益のために全方位で居続ける、と強調した格好だ。

 VWのEVシフトと中国依存が現在の苦境に陥った原因であるのに対して、トヨタは各地に最適なフルランアップを調整してバランスを取った。結果的にはこの戦略が、地政学リスクが高まる不確実な時代に、収益を確保できる最適解となっているのだ。

 では、いかにしてトヨタはこのうまいバランスにたどり着いたのだろうか?