親離れしたてのアザラシは
魚を餌だとは認識できない

山極:おっぱいだけ?

小菅:そう。しかも親は「これが餌だよ」って子どもに教えもしない。

 そして、産毛が失われた途端、突然子どもに無関心になるんです。子どもがどんな状態でも、助けに行くこともなければ近寄ることもない。子どもが寄ってきたって逃げていきます。

山極:それじゃ、親子の関係が失われるんじゃない?

小菅:失われます。

山極:餌はどうするんですか?

小菅:最初の頃は、僕たちもどうしようもなくて、子どもを捕まえてきて、人の手から餌をあげる「挿し餌」で食べさせたんですよ。でも、それは自然の姿ではない。

 だから、例の円柱水槽を備えた「あざらし館」をつくったときに、僕たちは手を出さず、子どもがどうするか見ていようと決めたんですね。

 できるだけアザラシの自然の暮らしを見てもらいたかったので、水槽の底にテトラポットを2~3段組置き、そこに結構な大きさのウグイ(編集部注/コイ科の淡水魚)を入れていました。水槽の水は真水なのでね。

 このウグイとアザラシの関係が面白い。アザラシがウグイを見つけても、ウグイはさっとテトラポットの中に入っちゃって、待っていても出てこない。アザラシは息が苦しくなるから、10分か20分で水面に上がります。そうすると、またウグイが出てくる。その繰り返し。

 で、子どもはというと、親から何も与えられなくなっても、魚をすぐに餌だと認識しないんですよ。ただただとにかく追いかける。

アザラシが自ら魚を
捕獲できるようになるまで

山極:でも、何か食べないといけないでしょ?

小菅:食べなきゃいかんという意識もないんだと思う。ただ、口で捕まえるだけ。ウグイはぴちぴち跳ねるじゃないですか。そしたら放すんですよ。魚は助かる。

山極:でも、アザラシはお腹が空いているわけですよね。

小菅:そう。だからどんどん痩せていく。

山極:ありゃぁ。

小菅:20キロくらいまで一気に痩せていくんだけど、何回か捕まえているうちに、偶然かどうなのか、頭をくわえて飲むんです。

『動物はふしぎ』書影動物はふしぎ』(山極寿一・小菅正夫、ポプラ社)

 それは親も教えていない。たまたまそれで飲めた子どもは、お腹がいっぱいになって気持ちよくなって、「あ、これを食べればいいんだ」って自分で学ぶわけです。

 そこに導くのは、ものすごく強い好奇心だけなんですよ。それで食べられるようになったらまた一気に体重が元に戻って、自立した暮らしを始めるんです。

山極:じゃあ、ひょっとしたら食べられるようにならないアザラシもいるかもしれない。

小菅:そう思いますね。動物園ではほとんどがそれで食べるようになるんですけど、自然界ではたくさんいるんじゃないでしょうか。