高市首相は円安への配慮が見られない
為替介入は時間稼ぎに過ぎない

 懸念は金融市場の反応だ。7月30日の海外時間、外国為替市場ではさらなる円安進行を見込んだ投資家のドル買い・円売りが膨らんでいた。その直後、日本銀行と米財務省による28年ぶりとなる円買い・ドル売りの協調介入が実施された。

 消費税率引き下げで財政悪化懸念が高まるのをけん制する狙いもあったといわれている。ただし、為替介入によって一時的に円売り圧力は収まるだろうが、それは時間稼ぎに過ぎないとの見方は多い。

 6月に出した「骨太の方針」原案にも共通するが、高市政策は財政悪化、円安がわが国にもたらす影響への配慮があまり見られない。経済の専門家が、首相の積極的な財政拡張策や円安歓迎の政策方針に懸念を表明しているにもかかわらず、首相がほとんど耳を傾けないスタンスを懸念しているようだ。

 わが国は今後、国債や地方債発行に頼った景気刺激策、社会保障運営を修正すべく、高齢者の負担増、消費税率の引き上げなどが必要になる可能性は高いだろう。現政権は、それを意図的に先送りしているようにみえる。

 問題の先送りは、財政悪化懸念を一段と高めることになる。そればかりではない、財政悪化リスクの高まりは、円売りの加速要因にもなる。

 また、日銀の政策対応が遅れると、金融政策の正常化はさらに遅延することも考えられる。物価上昇に対して金融政策が後手に回れば、物価の安定を実現するのは難しい。

 円安がさらに進むと、輸入物価はさらに押し上げられ、国内のインフレは高まると懸念される。財政悪化を反映した悪い金利上昇も加わることで、国内の金利も上昇する。これは、個人消費や企業の設備投資、国債費増加による財政運営にネガティブな影響だ。

 そうなると、日本国債、日本株、円をセットで売りに回る投資家は増えるだろう(トリプル安の発生)。状況次第では、政策リスクを反映した日本売りが本格化し、金融市場の混乱につながることが想定される。

 主要国の経済政策を振り返ると、「財源なき減税」が金融市場の混乱につながったケースがある。22年の英トラスショックはまさにそうだった。今年7月、英バーナム首相が、財政拡張派の人物を財務大臣に指名した後に、英国債が売られたこともあった。

 今後、円安進行や財政悪化のリスクの高まりで、わが国がトラスショックのような状況に追い込まれないことを願うばかりだ。その状況を避けるためにも、わが国の経済政策を冷静に見直すことが重要だ。

真壁昭夫さんのプロフィール