株式譲渡契約で「はい、終わり」
メインバンクも知らないM&A

――M&Aの前に金融機関に相談させたがらないのはなぜなのでしょうか。

片田江:いろんなケースがあるとは思いますが、結局は“成功報酬欲しさ”なのではないでしょうか。仲介会社は成約した件数や取引の金額によって担当者個人の収入が大きく変わる。だから売り手企業と買い手企業をできるだけスムーズにつないで、誰からも横やりを入れられずにM&Aを成立させたいわけです。

 ここで金融機関に事前に相談するとなると、金融機関は売り手企業の債権者でもありますから、「この買い手で本当に大丈夫なのか」「雇用は守られるのか」「借金は返済されるのか」と当然確認しますよね。その過程で、「やっぱりこのM&Aはやめよう」となる可能性もある。仲介会社としては、それを一番避けたいんでしょう。

 M&A仲介会社の担当者は、会社からも「成約させろ」と求められているし、自分のインセンティブ報酬にも直結する。だからメインバンクをはじめとする金融機関にはできるだけ関わってほしくない。

 経営者保証についても同じです。取引が成立する前に金融機関へ相談する理由が、仲介会社にはほとんどない。だから、そういう対応になってしまうんだと思います。

――まさに『社喰い』の中でも、仲介会社で働いていた方からそのような証言が出てきますね。

片田江:そうですね。今は業界もかなり変わってきていて、事前に金融機関へ相談するよう会社から指導されている仲介会社も多いと聞くので、以前ほどではないと思います。ただ、藤田さんも取材されていた21~22年ごろは、とにかく株式譲渡契約まで持っていって、「はい、終わり」という時代でした。

――それって詭弁ですよね。

片田江:そうかもしれない。それに加えて、業界自体がまだ若かったと思います。急速に人を採用していたので、「仲介歴1年未満」という担当者も珍しくなかった。銀行対応のノウハウも蓄積されていない。銀行が何を重視するのか、どう調整すればいいのか分からないから、「だったら最初から関わらせたくない」という発想になってしまう。そこも業界構造の問題だったと思います。藤田さんがおっしゃったように、全然顧客本位じゃないですよね。

 不動産でも保険でも、顧客に対しては重要事項説明があります。M&Aはそれ以上にいろんな人の人生を左右する取引なのに、十分な説明もないまま進んでしまう。従業員や家族の人生まで影響する話ですから、それはおかしいだろうと私は思います。

(※本稿は片田江康男記者の新刊『社喰い』〈ダイヤモンド社〉を記念した対談記事です)

片田江康男(かたたえ・やすお)
記者。1979年東京都生まれ。2003年ダイヤモンド社に入社。06年より「週刊ダイヤモンド」記者。これまで取材したテーマは東日本大震災後の東京電力問題や、大手生命保険会社における金銭詐取問題など。21年からM&A業界を取材。M&Aのダークサイドに踏み込んだ『社喰い』(ダイヤモンド社)が好評発売中。
藤田知也(ふじた・ともや)
早稲田大学第一文学部卒業、同大学院アジア太平洋研究科修了後、2000年に朝日新聞社入社。盛岡支局を経て02~12年に「週刊朝日」記者。経済部に移り、18~19年に特別報道部、その後は経済部に所属。著書に『ルポ M&A仲介の罠』(朝日新聞出版)、『郵便局の裏組織 「全特」――権力と支配構造』(光文社)、『郵政腐敗 日本型組織の失敗学』(光文社新書)、『やってはいけない不動産投資』(朝日新書)、『日銀バブルが日本を蝕む』(文春新書)、『強欲の銀行カードローン』(角川新書)がある。

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