社喰い#24Photo by Yoshihisa Wada/Yasuo Katatae

近年高収入企業として注目を集めるM&A仲介会社では、若手のうちから高い報酬を得ることができる。そのカギを握るのが、担当者個人へのインセンティブ制度だ。元社員からは「契約書をその場のノリでとっていた」という証言も飛び出した。さらに、業界最大手では目標未達の部長が「地獄」と振り返る会議も開かれていたという。新刊『社喰い』(著・片田江康男、ダイヤモンド社刊)から、高収入の裏側にあるM&A仲介会社の苛烈な一面を紹介する。(ダイヤモンド編集部副編集長 片田江康男)

“その場のノリ”で契約締結
M&A仲介会社が高収入なワケ

 中小企業の後継者不足を背景に躍進を続けてきたM&A仲介会社はここ数年、高年収企業の代名詞となっている。

 業界2位のM&Aキャピタルパートナーズ(MACP)の平均年収は2265万円(2025年9月期)で、2025年に決算期を迎えた全上場企業の中で1位。平均年齢はわずか32.4歳だ。

 業界3位のストライクも1521万円。最大手の日本M&Aセンターも、持株会社体制移行前に開示された2021年3月期の平均年収は1243万円と、いずれも上場企業トップクラスの高給を誇る。

「つい4~5年前まで、M&Aといえば胡散臭いイメージがありました。何にも知らない20~30代の若者が、中小企業のオーナー社長に『M&Aで会社を売却しませんか』なんて持ちかけると、『会社を売れとは何事だ』と怒鳴られることも日常茶飯事。だから、M&A仲介のコンサルタントには鋼のメンタルと、厳しい面談に立ち向かうモチベーションが必要なんです。高いインセンティブ報酬は、モチベーションになるわけです」

 日本M&AセンターのOBはこう話す。難易度が高く厳しい仕事なのだから、それに見合う高い報酬を出して人材を集めているようだ。

 M&A総合研究所に勤務経験がある別の30代男性はこう振り返る。

「とりあえず、くっつけないと稼げないわけです。早く成約させるために、とにかくクロージング(成約)まで持っていきたい。入社して間もないころは、M&Aの知識や経験もないし、売り手企業とどんなことを話したらいいのかもよく分からない。それでもとりあえず訪問して、手探りで話をしていました。今でも覚えていますが、当時の自分はアドバイザリー業務契約書をその場のノリでとっていました」

 アドバイザリー業務契約書は、M&Aに関するさまざまなアドバイスや情報を提供するための契約書で、M&A成立へ向けては、この契約書を売り手企業から獲得することが第一歩となる。

 このように大手M&A仲介会社は、インセンティブ制度によって社員を動かし、できるだけ早く、多くのM&Aを成立させるように仕向けてきた。

 だが、彼らを動かす要素はこれだけではない。高い業績目標をなんとしても達成させるための、強いプレッシャーがあるのだ。