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トラブルに巻き込まれた経営者に対し、「だまされた社長にも責任がある」という声は少なくない。だが、本当にそうだろうか。新刊『社喰い』(ダイヤモンド社刊)で企業買収のダークサイドを描いたダイヤモンド社の片田江康男記者と、『ルポ M&A仲介の罠』(朝日新聞出版刊)でM&A業界の問題点を鋭く指摘した朝日新聞社の藤田知也記者が、中小企業がトラブルに巻き込まれる業界構造の問題点に迫る。(取材・構成/ダイヤモンド社書籍編集局 工藤佳子)
中小企業が餌食になるワケ
メインバンクの存在意義
――M&Aのトラブルに関連する報道への反応を見ると、「会社を売った社長が甘かったからだまされたんだ」という意見があります。お二人は取材を通してどう思われましたか。
藤田知也(以下、藤田):それは、すごく考えた覚えがありますね。二つくらい言えることがあると思います。
一つは、2024年の春までは、M&A仲介のトラブルを扱った報道はほとんどなかった。むしろテレビをつければ、M&A仲介会社のきらびやかなCMが流れている。国も補助金を出して、「M&Aが日本経済を救う」と後押ししていた。新聞記事も、社長の高齢化が進む中で、M&Aは大事だという内容が多かった。誰も警鐘を鳴らさず、「こういう点に気を付けなければいけない」という注意喚起もほとんどない。そういう情報環境が、経営者の気を緩ませていた要因の一つだと思うんですよね。
もう一つ、「経営者の詰めが甘かった」という指摘自体は、否定できない部分もあると思います。
ただ、これらのトラブルを詐欺だと断言するわけではありませんが、世の中の詐欺事件って、起きた後なら「こうすればだまされなかったのに」と簡単に言えるんです。でも、その場に置かれたとき、とりわけ新しい手口だったときに、なぜだまされたのかというリアリティーは、細部を見ていかないとなかなか理解できない。そのリアリティーが分かれば、「だからだまされたのか」と理由が見えてくる。そこは、遠巻きに見ているだけでは理解されにくい部分なのかなと思います。
片田江康男(以下、片田江):私が問題のある買い手企業について取材を始めたのは、ルシアンホールディングスに買収されたU建設の関係者から編集部に持ち込みがあったのがきっかけですが、そのときも単に「U建設の被害がひどい」という話ではなくて、藤田さんと同じように、仲介会社の在り方と、本来サポートすべき金融機関、メインバンクの在り方に問題意識がありました。
中小企業にとって、メインバンクの存在って、僕らが想像している以上に大きいと思うんですよ。上下関係もありますし、情報の非対称性もすごくある。お金まわりだけでなく、新しい取引先を見つけたい、新しいビジネスに挑戦したいというときにも相談する。それだけ信頼関係が厚いので、「メインバンクが言っていることなら大丈夫だろう」と思うわけです。債権・債務の関係もあるので、まさか自分たちを経営難に陥れるような取引を勧めるとは思わない。
どのような企業なのかよく分からないM&A仲介会社とメインバンクが一緒になって「M&Aをしましょう」と言ってくる状況に直面した中小企業の社長は、その取引に問題があったとしても、見抜くのは難しいのではないでしょうか。
だから、単に「経営者の判断が甘かった」で片付けてしまうのは違う。仲介会社だけでなく、メインバンクも含めて、なぜトラブルが起きたのかという構造を捉える必要があると思いました。
売り手企業が軽視される
M&A仲介の無責任な仕事ぶり
――藤田記者の取材では、経営者保証が外れなかったことを大きな問題として取り扱っています。当時、被害企業からはどんな声がありましたか。
藤田:「朝日新聞」でスタートした連載の第1弾で明確になったのは、仲介会社の姿勢です。自社を売却しようとする売り手企業については熱心に財務状況などを調べる一方で、企業を買収しようとする側である買い手企業の状況はほとんど調査せずに仲介していました。
経営者保証の問題がはっきり見えてきたのは、第2弾で取り上げたT社の取材でした。この会社では、ほぼ全ての案件で経営者保証が外れていなかった。しかも買い手の社長は私の取材に対して、「最初から“すぐ”には保証を外すつもりはなかった」と言うんです。
――買い手側の社長が、ですか。
藤田:そうです。契約書には「経営者保証の解除に努める」と努力義務になっているものもありますし、中には弁護士が修正して、経営者保証の解除を「義務」としている契約もありました。
それでも買い手側は、「自分が保証人になるつもりはなく、会社を黒字化した段階で保証を外すつもりだった」と説明する。でも売り手側からすれば、「そんな話は聞いていない。約束が違う」ということになります。
もしかするとこういった買い手側の対応は、仲介会社にとっても想定外だったのかもしれません。でも、仲介会社に取材すると、「経営者保証を外すかどうかは金融機関の判断です」「私たちの仕事は株式譲渡までです。それが業界の常識です」という説明が返ってきました。
それを聞いて思ったんです。それなら、M&A仲介業者の仕事の在り方自体に問題があるんじゃないかと。
――とはいえ、仲介会社はこのようなトラブルを予期できたのでしょうか。
藤田:ある事例では、売り手側の社長が非常に慎重な方で、「経営者保証だけは絶対に外したい」と強く希望していた。だから、買い手の了承を得た上で地域金融機関に相談したんです。売り手側の社長があまりにも強く希望するので、金融機関も事前に買い手を調査し、「この買い手なら大丈夫でしょう」と判断して保証変更の準備を進めました。そして株式譲渡契約と同じ日に、保証変更の書類にも署名して、譲渡後すぐに保証を外せるよう手続きを進めた。結果として、経営者保証は無事に解除されました。つまり、やろうと思えばできるんです。
さらに、M&Aに詳しい弁護士に取材すると、第三者に対して買い手が一定期間借金を返せるだけの資産を預けておくエスクロー取引を使う方法など、安全性を高める手段はいくらでもある。
経営者保証の解除に関して「努力義務」としてしまう契約書の書き方にも問題がありますし、「株式譲渡までがM&A仲介業者の仕事」というのであれば、その後に経営者保証が外れないかもしれないという重大なリスクを売り手に押し付けるような仕事の仕方は見直す必要がある。
連載の第2弾の取材を終えたときに強く感じたのは、「これは顧客本位ではない」ということでした。買い手側の顧客本位ではあるかもしれませんが、少なくとも売り手側企業にとって顧客本位とはいえないビジネスだと思いました。







