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30代半ばで平均年収1400万円――。総合商社をしのぐほどの高給で知られるM&A仲介業界。その華やかさの裏側では、会社を売却した経営者たちが思わぬトラブルに巻き込まれるケースが相次いでいた。企業買収のダークサイドを描いた新刊『社喰い』(ダイヤモンド社刊)の著者である片田江康男記者と、『ルポ M&A仲介の罠』(朝日新聞出版刊)でM&A仲介の闇を描いた朝日新聞社の藤田知也記者に、業界の「異変」が見えてくるまでを聞いた。(取材・構成/ダイヤモンド社書籍編集局 工藤佳子)
「なぜこんなに給料が高いのか」
総合商社以上の高給業界
――まず初めに、M&A業界の取材を始めたきっかけについて教えてください。
片田江康男(以下、片田江):私は2020年の年末ぐらいから取材を始めました。当時担当していたのは保険業界でしたが、「週刊ダイヤモンド」の給与ランキングを眺めていたところ、M&A仲介会社が上位に入ってきたんです。
今は少し下がっているようですが、当時、業界トップの日本M&Aセンターの平均年収は約1400万円でした。しかも平均年齢は30代半ば。総合商社なら40代前半で平均年収1700万円くらいですから、30代半ばで約1400万円というのはかなり高い水準です。
だからM&A仲介会社について、「聞いたことはあるけど、どんな会社なんだろう」と興味を持ったのが取材のきっかけでした。調べていくうちに、高額なインセンティブ制度があることなどが分かってきて、「なぜこんなに給料が高いのか」とM&A仲介のビジネスモデルそのものに興味を持つようになりました。
藤田知也(以下、藤田):私は22年初めからです。業界最大手の日本M&Aセンターで会計不正が発覚した際に少し取材をしました。そのときは十分に掘り下げることができず、心残りがありました。そんな中で、片田江さんがダイヤモンド・オンラインで展開していたM&A業界の特集記事を興味深く読んでいました。
その後、24年1月下旬、なじみの取材先から「変なトラブルがある。業界の構造問題ではないか」という電話をもらったんです。トラブルになっている会社の名前を幾つか教えてもらい、そこから本格的な取材を始めました。
――それが藤田記者が書かれた「朝日新聞」の記事で一躍話題になった、ルシアンホールディングス(HD)の事件だったのでしょうか。
藤田:はい。ただ、取材は簡単ではありませんでした。最初に取材したのはルシアンHDに会社を売却しようとした売り手側の関係者でした。株式譲渡契約を結んだものの、「やっぱり会社を手放したくない」と白紙撤回したのに、その後、勝手に役員登記をされてしまったというケースです。
確かにひどい事例ではあるのですが、会社を売却した後で撤回するケースは一般的ではありません。記事にするのは難しい事例でした。
片田江:株式譲渡の契約自体は成立していたわけですよね。
藤田:そうです。株式を譲渡した後に売り手側が「やっぱりやめたい」と言い、買い手側もキャンセルに応じた。その後の対応には問題がありますが、どこでも起きる話ではないでしょう。
2件目は、買い手が約束した経営者保証を解除せず、経営にも関わらないまま事業を停止させたケースでした。ただ、銀行口座を調べると、買い手は買収後に資金援助もしていた。約束は守っていないけれど、会社からお金を抜いて利益を得たわけでもない。100万円ほどで会社を買い、その後も資金を入れたものの、もともと赤字経営だったことから会社がつぶれてしまったという状況でした。問題のあるケースではあるけれど、買い手が何を目的にしているのかが分からなかったんです。







