社喰い#15Photo by Yasuo Katatae

従業員約70人の出版社が、従業員2100人超の名門家電メーカーを買収する――。2021年、中堅出版社の秀和システムは、赤字が続いていた船井電機を約210億円で買収した。なぜこれほど規模の違う企業を買収できたのか。そのカギを握ったのが、LBOスキームだ。新刊『社喰い』(著・片田江康男、ダイヤモンド社刊)から、名門メーカー買収の舞台裏を抜粋してお届けする。(ダイヤモンド編集部副編集長 片田江康男)

「これで少しは良くなる」
赤字メーカーの決断

 2024年10月24日、給料日を目前にして突如破産した船井電機。テレビとビデオが一体化した「テレビデオ」などのヒット商品で一世を風靡し、薄型テレビでソニーやパナソニックを抑えて、北米市場でシェア1位を獲得したこともある名門家電メーカーだ。

 しかし、創業者・船井哲良氏の死後、後継者を定めきれないまま経営トップの交代が相次ぎ、業績も悪化。2008年3月期から2024年3月期までの16年間で、連結最終赤字は累計約1100億円に上った。

 そんな船井電機に転機が訪れたのが、2019年。中堅出版社の秀和システムを率いる上田智一氏による買収話が浮上する。創業家側の意向もあり、交渉を経て2021年3月にTOBが始まった。

 当時、秀和システムは資本金9500万円、従業員約70人。一方の船井電機は資本金313億円超、総資産700億円超、連結従業員数2100人超だった。まさに「小が大を飲む」買収と言える。

 これだけ規模の差がある企業が買収できたのには、どんなからくりがあったのだろうか。

 買収プロセスには、大きく2つの段階があった。

 まず買収には、いわゆる「受け皿会社」が使われている。

 秀和システムは船井電機買収のために、秀和システムホールディングス(HD)を設立。社長には上田氏が就任し、この会社を受け皿として買収資金200億円をりそな銀行から借り入れた。

 受け皿会社が買収資金を借り入れることで、借り入れに伴うリスクが、親会社である秀和システムに波及することを最小限に抑えられるメリットがある。

 その後、受け皿会社である秀和システムHDは、2021年3月から5月にかけて、船井電機株式の47・05%分を、TOBによって一般株主らから買収した。

 船井電機の株式を持っていた株主は、当時の状況をこう語る。

「出版社に買収されると聞いてびっくりしましたが、船井電機の株を買ってからずっと株価が下がり続けていたので、これで少しは良くなるんじゃないかと思いました」

小が大を飲む買収を可能にした
LBOスキームとは?

 そして2021年8月に船井電機は上場を廃止。

 2カ月後の2021年10月、秀和システムHDが創業家長男の保有していた34・41%の株式を直接買い取り、船井電機は秀和システムの完全子会社となった。なお、創業家長男の株式は一般株主の半額以下で買い取られている。

 一連の買収の費用は総額約210億円。受け皿会社がりそな銀行から借り入れた200億円の担保には、買収された船井電機の定期預金180億円が設定された。

 この手法は、LBO(レバレッジド・バイアウト)と呼ばれる。買収する相手企業の資産を担保にして、買い手企業が金融機関から資金を借り入れてM&Aを行う。M&Aが一般的になってきたことに伴って、2000年代初頭からLBOの事例が増えていた。

 LBOでは買収する相手企業の信用力を利用するため、究極的には買い手に資金がなくても、大企業を買収できる。

 これが、小が大を飲む買収を可能にしたからくりだった。

 ただし、買収後の買い手企業には借入金が重くのしかかる。事業がうまくいかなければ、借入金の重みで会社が傾く可能性もあり、リスクは高い。