社喰い#25Photo by Yasuo Katatae

2024年10月24日、老舗家電メーカーの船井電機は給料日前日に突如として破産した。その約3年前、船井電機を買収し、経営権を握ったのが中堅出版社・秀和システムを率いる上田智一氏だった。企業買収を重ね、M&A業界では「ストロングバイヤー」として知られていた上田氏。だが、船井電機再建の切り札として買収した脱毛サロン「ミュゼプラチナム」が、その命運を大きく狂わせる。新刊『社喰い』(片田江康男・著、ダイヤモンド社刊)から、名門メーカーを破産へと近づけたM&Aの内幕を紹介する。(ダイヤモンド編集部副編集長 片田江康男)

「小が大を飲む買収」を実現
知る人ぞ知るストロングバイヤー

 2021年、中堅出版社・秀和システムを率いる上田智一氏は、老舗家電メーカーの船井電機を買収した。

 当時、秀和システムの従業員は約70人。対する船井電機は連結従業員2100人超、総資産700億円超を誇る大企業だった。まさに「小が大を飲む買収」。

 この買収において上田氏は、売り手企業である船井電機の資産を担保に金融機関から資金を調達する、「LBOスキーム」を駆使していた。

 もっとも、上田氏にとってM&Aはこれが初めてではない。

 船井電機の買収に動いていた時期、上田氏は事業承継を目的としたM&Aを矢継ぎ早に行っていたようだ。

 上田氏は、私の取材に対して、こう豪語した。

「会社をどうすれば改善できるかが分かれば、買収に乗り出していました。それぞれの買収時には、銀行などの取引先から資金を提供してもらっています。買収後、各社の財務は改善していますし、従業員の平均給与も上がっています」

 実際、前述の敬屋社中を含む少なくとも8社を買収して、代表取締役に就任している。

 この過程で上田氏には、M&Aに関係する多くの人と情報が集まっていった。

 大手M&A仲介会社の社員は次のように明かす。

「M&A仲介会社は(上田氏に)提案しまくっていたと思います。上田さんは船井電機の社長であり、背後には強固な財務基盤を持った船井電機がいるわけです。実際、何社も買収していましたし、M&A仲介会社にとっては“上客”でした」

 前述したように、M&A仲介会社とは、主に中小企業を相手に、譲渡を希望する企業やオーナー社長(売り手)と、譲り受けたい企業(買い手)との間に立ち、譲渡価格や条件を交渉したり、譲渡手続きなどを行ったりする企業だ。住宅などを売ったり買ったりする際に間に立つ、不動産仲介会社と似ている。事業承継の重要性が認識されるにつれ、2010年ごろから急成長した業種だ。

 大手のM&A仲介会社は、M&Aが成立した段階で、譲渡価格に応じた手数料を買い手側企業と売り手側企業の両方から、成功報酬として受け取ることが一般的。そのため、事業承継をライフワークとしていた上田氏に会社を買ってもらい、成功報酬を稼ぐ目的で多くのM&A仲介会社が群がっていたのだろう。

 M&A仲介会社やコンサルタント、その他金融機関の間では、買収意欲が旺盛で、実際に企業の買収実績が豊富な企業や事業家を「ストロングバイヤー」と呼ぶ。

 上田氏は、M&A仲介会社の中ではストロングバイヤーとして、知る人ぞ知る存在になっていた。

 事業承継の一環で、船井電機の社長に就任した上田氏。その上田氏を、周囲はどう評価していたのか。元幹部の上田評はこうだ。

「不思議な雰囲気の人でした。自分はできると思っているようだったんですが、対人のコミュニケーション力や交渉力はあまりなかったと思います。創業家にご説明するのも、他の取締役に任せていたようです。それに、少し強めの口調だったり、当たりが強めだったりする人との話し合いや交渉は、一歩引いてしまう感じがありました」