Photo by Yasuo Katatae
2025年8月、脱毛サロン大手「ミュゼプラチナム」を運営するMPH社が破産した。「ミュゼ」を冠する脱毛事業のオーナーは、破産までに8社を転々とし、一連の買収は「ミュゼ転がし」と呼ばれるほど奇々怪々な様相を呈している。その内部では一体何が起きていたのか。新刊『社喰い』(片田江康男・著、ダイヤモンド社刊)から、一時ミュゼのオーナーとなり、「3億円はやられた」と語る実業家が明かした、その驚くべき内情を紹介する。(ダイヤモンド編集部副編集長 片田江康男)
「3億円はやられたな」
“ミュゼ転がし”に巻き込まれた実業家
「騙されたよ……。3億円はやられたな。俺はミュゼに個人で15億くらい貸していたんだけど、返ってきたのは12億くらい。3億、返ってきてない。俺の話は全部本当だよ。書くのは構わない。だって事実だからね。でも捏造はしないでくれよ」
開口一番、F氏はこう言って、ミュゼの社長を引き受けた経緯について話し始めた。
脱毛サロン大手「ミュゼプラチナム」は2002年に福島県で創業後、破竹の勢いで店舗数を拡大。その後、紆余曲折を経て2023年4月には家電メーカーの船井電機の傘下に入った。だがわずか1年後の2024年3月、香港系企業のKOC・JAPANが船井電機HDからミュゼを買収。そしてその約1カ月後、ミュゼはさらに別の人物の手に渡ることとなった。
KOC・JAAPNからミュゼを引き継いだのが、エステや脱毛サロンの経営経験があるF氏だった。
F氏は日本たばこ産業傘下のテーブルマーク子会社、水産加工会社のグリーンフーズの社長を務めていた実業家だ。エステサロン「AILE」の社長を務めた経験がある。
大けがをして入院し、退院したばかりで療養中にもかかわらず、快く自宅に上げてくれた。時おりけがをした首のあたりをさすりながら、F氏はパジャマ姿で丁寧に経緯を説明してくれた。
「ミュゼの創業者から、船井電機が持っているミュゼを買い取ってくれないかって頼まれたんだよ。それで船井電機の上田(注:社長。当時)と交渉したら、譲渡価格は100万円で、船井電機がミュゼに貸し付けていたカネ……、あの時で20億円くらいあったと思うけど、それは返さなくていいという条件を上田がOKした。ただし、船井電機が負っていたミュゼ関連の連帯保証を引き受けることについては、俺は嫌だと言ったんだ。それで話は決裂。この時に話は一旦終わりになった」
つまり、KOC・JAPANが船井電機HDからミュゼを買収する前、F氏が買収する話が浮上していたという。F氏は続ける。
「その後、知り合いを通じて再度、ミュゼをやる気はないですかという話がきた。KOC・JAPANがミュゼを買ったんだけど、KOC・JAPANにはノウハウがなくて、買ったもののどうしたらいいか分からない。それで経営できる人がいないかということで、一度は断った俺にまた話がきたわけ」
2024年3月ごろ、F氏は東京でKOC・JAPANの関係者と会い、正式に経営を引き受けることにした。
その際、F氏は株式を約7割保有すること、4月から7月にかけて、KOC・JAPANが毎月5億円、合計で20億円の資金を注入することを条件にしたという。それでも足らない資金は、F氏が出すことも伝えた。
話はまとまり、こうしてミュゼはF体制で走り始めることになった。
当時の様子を、関係者はこう話す。
「みんながFさんに期待していたんですよ。すごい経営者だって触れ込みで入ってきていたので。だから、今度は変わるんじゃないかって、そんな感じでした。ミュゼは本社で無駄なことをいっぱいしていたので、それを切ったり、現場は現場で大事にしたりしていました」
「5億円じゃないですよ、18億円ですよ」
次から次へと湧き出る借金
期待を背負ってミュゼに入ったF氏だったが、ミュゼの内情に驚愕する。
「資金繰りどころじゃない。引き受ける前に経営数字は見たけど、もうやってられないと思ったね。買掛金の支払いを待ってもらうために取引先に行って、まず謝る。『5億円の支払いですが、分割でお願いします』ってお願いするわけです。そうしたら向こうから『いや、5億円じゃないですよ、18億円ですよ』って言われるんです。もう一つの支払い先にも謝って、支払い期日を延ばしてもらおうと思って『買掛金の3億円ですが……』と言ったら、『いや、11億円です』と。一体どうなっているんだと思ったね」
F氏は続ける。
「ミュゼには、試算表がないんだよ。簡単なものはあるんだけどね。俺も会社をいろいろ経営してきたけど、これにはびっくりしたね」
試算表とは仕入れや売り上げなど、日々の会社の資金の流れを掴むために、どんなに小さな会社も必ず作る表だ。損益や負債の状況を正確に把握するために欠かせない。
それがない会社は、すなわち会社の資金の流れが記録されていないに等しい。だから、誰も知らない借金が湧き出るのだ。
F氏は、在庫にも驚かされたという。
「エステでは化粧品やパウダー、店で使うガウン、スリッパなどの備品が必要なんだけど、ミュゼは当時の毎月の出荷量ペースから計算すると、ある備品は全て消化するのに16年3カ月かかる在庫を抱えていた。倉庫代もアホみたいにかかる。普通は計画的に仕入れる量を決めるけど、購買を担当する社員と営業を担当する社員が連携していなくて、購買の担当者は、たくさん必要なんじゃないかと思って仕入れたって言う。キャンペーンなんかの営業施策に合わせた仕入れや販売計画を立てるという、当たり前の発想がなかった」 。
それでもF氏は、経営を任された2024年4月から、ミュゼを立て直すための改革を進めていたという。
「エステは、しっかりやれば儲かる。大事なのは従業員の満足度を高めていくこと。やっぱり良いサービスをするには、従業員に満足してもらっていないとだめ。だから俺はミュゼに入ってから、すぐに意見箱を店に置いたんだよ。そうしたら、めっちゃいっぱい入っとった。俺は全部読んで、8個に絞って改善しますと宣言したら、次の月から月次売上高が3億円増えて、2カ月目にはさらに3億円増えた。広告費をたくさん使ったわけじゃない。これがエステの本質。従業員のモチベーションを上げることが大事なんだよ」
だが、そんなF氏も、ミュゼの舵取りは4カ月が精一杯だった。2024年7月末にミュゼの代表を退任している。そしてその裏では、経営再建どころではない、さらなる展開が待ち構えていた。
(※本稿は片田江康男記者の新刊『社喰い』(ダイヤモンド社)を抜粋・編集した記事です)
記者。1979年東京都生まれ。2003年ダイヤモンド社に入社。2006年より『週刊ダイヤモンド』記者。これまで取材したテーマは東日本大震災後の東京電力問題や、大手生命保険会社における金銭詐取問題など。2021年からM&A業界を取材。M&Aのダークサイドに踏み込んだ『社喰い』(ダイヤモンド社刊)が好評発売中。
Key Visual by Kaoru Kurata, Kanako Onda







