社喰い#23Photo by Yasuo Katatae

2025年8月に突如として破産した脱毛サロン大手「ミュゼプラチナム」は、株主が変わるたびに会社分割を繰り返し、新会社へ「ミュゼ」事業を移す一方、旧会社には債務が残されていったという。新刊『社喰い』(片田江康男・著、ダイヤモンド社刊)から、最後のオーナーとなった投資ファンド代表・高橋英樹氏への取材で見えてきた、複雑怪奇な資金繰りの実態を紹介する。(ダイヤモンド編集部副編集長 片田江康男)

ミュゼプラチナム最後の社長
光通信出身の実業家はトンカチを手に…

 脱毛サロン大手「ミュゼプラチナム」は、2002年に福島県で創業し、全国に店舗を拡大した。しかし、急成長の裏で資金繰りに行き詰まり、その後は運営会社や株主が次々と交代することになる。

 2023年4月には船井電機HDが33億円で買収したものの、わずか1年後の2024年3月、香港系企業のKOC・JAPANへ100万円で売却。その後、エステ業界で経営経験を持つF氏が再建に乗り出したが、わずか4カ月で代表を退任した。

 経営者が次々と入れ替わり、“ミュゼ転がし”とも言われる状況の中、ミュゼは資金繰りが逼迫し、破産寸前まで追い込まれていた。2025年8月に運営会社MPHが破産する直前に新たなオーナーとして現れたのが、投資ファンドのグローバルブリッジファンド(GBF)だ。

 GBFの代表社員は一般社団法人PDAA。PDAAは国際営業代行協会の略で、代表理事は高橋英樹氏だ。

 高橋氏は学生時代に通信サービス系企業の光通信に在籍したといい、“紆余曲折”がありつつもさまざまな事業を手がけてきたようだ。

 手紙で取材依頼を送るとすぐに返事があり、四谷の事務所で取材に応じてくれた。取材当時、事務所があるビルには、現在話題になっている「みんなで大家さん」の関連会社も多数入居していた。

 高橋氏は当日、薄いピンク色のジャケットを羽織り、なぜか子会社の備品だというトンカチを手に現れた。

 高橋氏はミュゼに関わり始めた経緯についてこう説明する。

「GBFの関係者が(以前のオーナー会社である)KOC・JAPANに20億円くらい資金提供をしていました。そこで、GBFが支援に乗り出しました」

 高橋氏は2024年7月からミュゼに関与するようになったという。ミュゼの中身を見た高橋氏は次のように考えたという。

「ミュゼは会員数が百万人単位でいる。それに、アジアにフランチャイズで24店舗あって、ちゃんと利益が出ていました。必要な資金を入れれば、十分やっていけるのではないかと思ったんです」

 加えて、こう強調する。

「働いているエステティシャンは、ミュゼで働くことを生きがいにしている方が多い。なんとかできるのではないかと思いました」

 さらに顧客についてもこう話す。

「脱毛サロンやエステ業界は、コロナ禍で大打撃を受けました。それでもミュゼはブランド力でも会員数でも、間違いなく圧倒的なナンバーワンです。何より、ミュゼにはコアなファンがいる。みんなミュゼが大好きなんですよ」

 だが、立て直しは容易ではなかったという。過去の運営会社が放置していた債務が、最大の足枷となった。

運営会社が転々とする理由
会社分割を繰り返す狙いとは?

 ミュゼは20年以降、株主が変わると会社分割を行って、新設した会社にミュゼ事業を移管しながら事業を続けてきた。分割した元の会社には、債務だけが残る。

 実際、GBFが設立したミュゼの運営会社MPHも、それ以前の運営会社であるミュゼプラチナムから分割して作られた会社だ。

 債務を負う会社と事業を継続させる会社に二分することで、事業を継続する会社を債務から解放し、再生しようとしたのだろう。ミュゼ社内には会社分割のノウハウがあったようだ。

 ただし、MPHの破産管財人が作成した「破産法第157条による報告書」を見ると、日本年金機構は、会社分割をしたのは社会保険料の徴収から逃れるためだったとして、当時の運営会社であるMPHの売掛金や預金などの資産を差し押さえている。実際、分割前の運営会社であるミュゼプラチナムは、従業員の社会保険料を滞納していた。

 GBFの高橋氏からすれば、日本年金機構による差し押さえは、過去の放漫経営のツケを食らった形となる。

「毎日のようにカネを返してくれって…」
新社長を悩ませたミュゼの“懐事情”

 さらに、従業員への給与の支払いも遅延するほど当時のミュゼは困窮していたようだ。

 高橋氏はこう打ち明ける。

「毎日のようにカネを返してくれって来ましたよ。ミュゼは、その日に店の運営に足りない資金が何億円とあって、それをすぐ用意しなきゃいけない状況が続いていました。それで経営陣が知り合いなどの個人や企業を回って、『お金貸してください』と言って借りてくることを繰り返していたんです。“顔”で借りていた状態です。だから、誰からカネを借りたかなんて記録していない。それで簿外債務がたくさんあったんです」

 当時、MPHの元には会社分割前の運営会社への借金返済の要請が次々と押し寄せていたという。高橋氏はさらに続ける。

「(旧運営会社は)金融機関に会社名義の口座を作るのも一苦労。国内で付き合ってくれる地銀が数行あるくらいでした」

 メガバンクや地方銀行などの金融機関から資金を借りることができないほどの困窮。残された方法が、株主や経営陣らが、自らの知り合いの企業や個人からカネを借りる方法だった。

 だが当然、カネを貸す側からは担保を求められる。

 そこでミュゼは、運営会社の株式を担保にしてカネを借りていた。ミュゼにカネを貸した債権者はこう話す。

「ミュゼには現金もないし、土地や建物など担保に取れる資産がない。取れるのは運営会社の株くらいしかないんです」

 そんな中、2025年2月、ミュゼでは高橋氏を含む全取締役が突如として解任され、経営権が見ず知らずの会社へと移る。いわゆる“クーデター”はなぜ勃発したのだろうか。関係者の証言を紐解いていくと、複雑怪奇としか言いようのない“ミュゼ転がし”の真相が浮かび上がってきた。

(※本稿は片田江康男記者の新刊『社喰い』(ダイヤモンド社)を抜粋・編集した記事です)

片田江康男(かたたえ・やすお)
記者。1979年東京都生まれ。2003年ダイヤモンド社に入社。2006年より『週刊ダイヤモンド』記者。これまで取材したテーマは東日本大震災後の東京電力問題や、大手生命保険会社における金銭詐取問題など。2021年からM&A業界を取材。M&Aのダークサイドに踏み込んだ『社喰い』(ダイヤモンド社刊)が好評発売中。

Key Visual by Kaoru Kurata, Manami Kanemura