厳しいオーディションを経て、得られたものは…

 ニューヨークでの留学期間中に柔術を習い始めた吉沢さんは、帰国後に合気道の稽古も開始した。さらに、4年ほど前から殺陣の道場に通い、 “武士道”の精神を追求している。

吉沢 僕が通っている道場は殺陣の技術はもちろんですが、実は、8割くらいを人間形成に重きを置いています。師匠が、僕のことを、“俳優”として以前に、“ひとりの人間”として見てくれています。まだ何も知らなかった10代、20代の頃の「新しい世界にはこういう学びがあるんだ」「これは自分には合わないかも……」といった気づきや発見を、40代後半になって追体験している感じです。

 師匠からの指導で印象に残っているのが「マイナス20歳の心持ち」という考え方です。年齢を重ねると、顔にいい皺ができたり、シブさを増したりするメリットもありますが、筋肉が衰えて、思考の速度が落ちるなど、どうしても抗えないデメリットが生じてきます。そこに引っ張られないよう、常に「マイナス20歳の心を持って行動しなさい」というのが師匠の教え。「年をとったので、体のしんどさはしょうがない」と捉えがちだけど、それだと、大事なものを見落としてしまったり、自分への言い訳が多くなったりする。世の中には、「この人、本当に80代⁉」と驚くような方もいらっしゃいます。心の中で自分をどう捉えるかによって、日常の過ごし方や受け取り方が変わってくるので、思い描く将来のために、僕は、「マイナス20歳」という意識を念頭に置いて行動するようにしています。

 日々、肉体と精神の鍛錬に勤しんでいる吉沢さんは、2022年から上演され、今年(2026年)末に閉幕する舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』に、一昨年(2024年)から出演している。厳しいオーディションを経て、主人公ハリー・ポッター役を射止めた。

吉沢 海外の作品はオーディションで出演が決まるものがほとんどですが、日本では「オーディションは新人が受けるもの」という印象が強いですよね。舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』はイギリス・ロンドンで生まれ、世界中で愛されている大人気作品で、日本でも初演から錚々たる方々が出演しています。僕は、「俳優としての可能性が広がるなら挑戦したい」という意欲をもって、オーディションに参加しました。結果、ハリー・ポッターという役柄を演じることになりましたが、稽古においては、クリエイティブのチームからハイレベルなことを要求されました。それは、「どうして、これができない!?」というダメ出しではなく、「私たちはこれを求めていますが、あなたはできますか?」という言い方で、演者がそれに応えられなければ、「それなら、方法を変えてみましょう」と、別のアプローチを提案してきます。一見、優しいディレクションに思えますが、要求されるレベルはとても高く、シビアなもの。「あなたは一流の場所にいるのだから、プロの俳優であるならば、求められたところまで到達してください」と。