
最近、職場で誰かを全力で応援したことはあるだろうか? 自分のことに精一杯で、応援し合うことを忘れていないだろうか? 「応援されることで、思いがけない力が湧いてくる」「応援した相手ががんばる様子を見て、自分にもエネルギーが満ちてくる」――そう語るのは、日本初の女子マラソンメダリストである有森裕子さんだ。バルセロナ五輪(1992年)で銀メダル、アトランタ五輪(1996年)で銅メダルという偉業の陰にあったのは、走ることへの情熱と努力だけではなく、「応援」の持つ力だった――有森さんはそう語る。恩師の言葉や沿道からの声援で「応援の力」を信じ続けた有森さんに、チーム・組織において、応援し、応援されることの大切さについて話をうかがった。(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治)
子どもは、褒めてもらうことで“自信”を持っていく
股関節脱臼の状態で生まれ、生後5ヵ月まで両足に矯正ギプスを付けていた有森さん。勉強も苦手で、優秀な兄と比べられては、「私には取り柄がない」と落ち込む毎日だったそうだ。「私にしかできない」と胸を張れる“何か”がほしい――そう思っていた小学5年生のとき、ランナー人生のスタート地点となる陸上クラブで出会ったのが、恩師となる安藤先生だった。
有森 安藤先生は私の不器用さや自信のなさを見抜き、「有森さんが持っているものはみんなが持っているものと違うだけで、全然悪いものじゃない。それが武器になっていないのは、自分でそれを悪く思うからだ」と言ってくれました。そのうえで、私が一生懸命がんばっていることを応援してくれたのです。安藤先生に応援してもらえたことで、もっとがんばろうと思えるようになったし、「有森さんのよさは、よくがんばるところだ」と褒めてもらえたことで、自信を持てるようになりました。そもそも、子どもが、自力で自信を持つなんて不可能ですよね。子どもは、周りの人に褒めてもらって、初めて、自分の良さを知るようになるのです。
有森さんが、そうした恩師とのエピソードを誰かに話すと、「(有森さんは)良い先生に出会えたからうまくいったのですね」「私に結果が出ないのは、良い先生に出会えていないから」と言われることがあるという。
有森 安藤先生は私に、「有森さんが欠点だと思っているものは、有森さんの武器。それを活かせていないのは君自身の問題だ」とおっしゃいました。思うような結果を出せていない原因は本人にある――結果を作るのは、あくまでも、その人自身なのです。生まれながらに持っているものやたまたま訪れた出会いは自分の捉え方次第でプラスにもマイナスにも変えられる。だから、「自分に結果が出ないのは、良い先生に出会えていないから」というのは、他責な考え方だと思います。

有森裕子 Yuko ARIMORI
元マラソン選手
1966年、岡山県出身。日本体育大学を卒業後、リクルートに入社。マラソンを本格的に始めて4ヵ月で初マラソンの日本記録を更新し、一気にトップ選手入りを果たす。1992年のバルセロナ五輪で銀メダル、1996年のアトランタ五輪で銅メダルを獲得。2007年の東京マラソンでプロを引退後、NPO法人ハート・オブ・ゴールドの代表として活動。国際オリンピック委員会委員、ワールドアスレティックス(世界陸連)理事、日本陸上競技連盟会長など複数の組織の要職を務めながら、講演やワークショップを通じて、スポーツの普及・振興にまい進している。