まず、預貯金の照会は10年分さかのぼれます。銀行には取引履歴を10年間保存する義務があり、これを税務署が確認すれば、給与が振り込まれるたびに引き出されている不自然な資金の動きが浮かび上がります。
たとえば、毎月決まった日に給与が入金された数日後、まとまった額が引き出されている。これが何年も繰り返されていれば、「生活費にしては多すぎる」「使い切れる金額ではない」というのはすぐに見えてきます。
特に、公共料金や生活費の引き落とし用の口座とは別に、ほとんど動きのないもう一つの口座から、給与が入るたびに現金が抜かれている――そうした履歴が長期間に渡って続けば、素人目にも不自然さは一目瞭然です。
さらに、申告された財産の内訳と、家族構成や居住地域から推計される平均的な生活費とを照らし合わせることで「この収入と生活レベルなら、もっと財産が残っているはずだ」という違和感を事前に?(つか)んでいくのです。
――違和感から隠れている現金があると推測できるのですね。
そうです、まず被相続人の生涯収入をおおまかに試算します。何年勤務し、どのくらいの給与水準だったか。そこから住宅ローンや教育費、日々の生活費といった支出を差し引いていく。それでもなお、申告されている預貯金額があまりに少なければ、「差額はどこに消えたのか」という疑問が残ります。
これを税務署は内部で「預貯金過少」と呼んでいるのですが、この段階ですでに実地調査に入る前から「ある程度の金額が、まだどこかに眠っているはずだ」という見立てができあがっているのです。
つまり、税務署はいきなり実地調査をしているのではありません。現地に足を運ぶ前から、通帳の動きと生活実態という二つの物差しを重ね合わせ、かなり具体的な「答えの輪郭」を描いた状態で調査に臨んでいます。
だからこそ実地調査の当日は、いきなり核心を突くのではなく、世間話や生活ぶりの聞き取りを通じて、隠れた現金があるという確証を得るのです。







