「買収拒否」は本当に企業価値を守るのか?危機企業を蝕む経営陣・株主・社外取締役の“三者共犯”写真はイメージです Photo:PIXTA

経営陣・支配株主・社外取締役
危機企業を蝕む三者共犯の構造

 近年、日本では買収提案や非公開化提案を拒否した後に企業価値が大きく毀損した事例がみられる。なぜ経営陣・支配株主・社外取締役は、時に独立再建という高リスクの賭けを選ぶのだろうか。

 コーポレートガバナンス・コード(2021年6月改訂)は「株主との建設的な対話」を掲げ、東京証券取引所は2023年3月、上場企業に「資本コストや株価を意識した経営」の開示を要請した。株式市場からの規律付けは強まり、株価は経営者の成績表となった。平時はこの方向で問題はない。

 しかし、この構図は危機時に反転する。会社が窮境状態になると、経営者・支配株主・社外取締役の三者が同じ方向を向いて社会にコストを外部化する構造が生まれる。

堅実策と一発勝負の比較
経営者と株主の共犯関係成立

 経営者は、会社の存続が危ういとき、堅実な再建策と一発勝負を比べれば、後者を選ぶ合理性が生じる。堅実策で会社が消えれば経営者の職も終わる。一発勝負が外れても失うものは同じだが、当たれば救済者として名を残す。マイナスは既に確定しており、アップサイドだけが残されているのだ。

 有限責任の下、株主が失う金額は投資額を超えない。破綻寸前の会社では、その投資額はすでに毀損している。株主の期待値は、上記の経営者と同様にマイナスは確定していて、アップサイドだけが残っている。この場合も、堅実策よりも大きな賭けが合理的な選択となる。

 企業金融論では、これをリスクシフトと呼ぶ。破綻に近づいた企業ほど、株主が有限責任の陰に隠れて、より危険な戦略を選好するようになる現象を指す。エージェンシー理論は経営者と株主の利益乖離を問題視してきたが、危機時にはむしろ両者の利益が一致する。

 なお、一部の創業家やオーナー系株主のように、経済合理性以外の論理で株式保有をする場合もある。しかし、多くの場合、彼らは経営者と情報・意思決定を共有しており、経営者の一発勝負を止める側にも回りにくい。少なくとも独立した監督主体としては機能しにくい。