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資本コスト経営が浸透し始めているものの、中には、投資家の相場観に全くそぐわない数値を自社の資本コストとして開示する企業が存在する。なぜ、このようなギャップが生じるのか。連載『事例で読み解く!経営・ビジネスの深層』では、「経営者・管理職必修の資本コスト経営改革」と題して全5回にわたって資本コスト経営の本質を解き明かしていく。第3回となる本稿では、資本コストを算出するモデルであるCAPMの限界を示すとともに、CAPMを補完する有用な手掛かりとなる指標を解説、さらには企業が呪縛される「ROE8%」という数値の本質について解説していこう。(プルータス・コンサルティング代表取締役社長 野口真人)
机上の計算結果と
「市場のリアル」のズレ
前回(『資本コスト=目に見えない「投資家の期待値」はどう計算する?ファイナンス理論「CAPM」を基礎から解説』)では、見えない「投資家の期待値」を数値化するための代表的な物差しとして、CAPM(資本資産価格モデル)のメカニズムを解説した。企業固有のリスク感応度を示す「β(ベータ)」という“背番号”を通じ、自社の株主資本コスト(本連載で定義する「資本コスト」)を算出するプロセスは、論理的かつ極めて有用なアプローチである。
しかし、実務の現場では、ここで算出した「理論値」をそのまま投資家に伝えても、対話が全くかみ合わないケースが頻発する。「当社の資本コストは計算上5%です」と説明しても、投資家から「当ファンドの要求リターン(期待値)はもっと高い。自社のリスク認識が甘過ぎるのではないか」と一蹴されてしまうのである。
時には、こうしたギャップが水面下の対話にとどまらず、開示された株主資本コストの水準を公然と問題視し、独自試算と共に“公開キャンペーン”に踏み切る投資家も存在する。あるいは、算出結果が一般的な目安とされる「8%」を下回ってしまったことに不安を覚え、開示の筆が止まってしまう実務担当者も少なくない。
筆者連載の第3回となる今回は、教科書的な理論から一歩踏み込み、実務家が直面する「理論と現実のギャップ」に焦点を絞る。CAPMの限界を正しく理解し、「8%の呪縛」から脱却し、投資家の「本音」を探ることで、市場と対等に渡り合うための「相場観」の養い方について解説する。







