同報告書で最も重要といえるのは次のくだりである。ここに引用しておきたい。

 有価証券報告書における開示を回避しつつゴーンが受領しようとしていた報酬は推定で総額200億円以上に上り、しかもその一部はゴーンに支払い済みである。また、役員報酬の名目以外にゴーンが日産に現に不正に支出させ、あるいは支出させようとしていた金額は少なくとも合計150億円に上る。
 以上のとおり、ゴーンらの一連の不正の規模は全体で約350億円以上という極めて巨額のものとなる。

 日産は2020年2月12日、ゴーンの不正行為によって損害を与えられたとして、ゴーンに100億円の損害賠償を求めて横浜地裁に提訴した。

「冤罪である」というゴーンの主張に同調する専門家もいる。しかしながら、それは最初の逮捕、起訴事案である「金商法上の所得開示義務違反」に当たるか否かという点で議論が分かれているにすぎない。

 当のゴーンが国外に逃亡してしまったため、金商法開示義務違反の共犯であるケリーの裁判だけが開かれ、そこから進展していないのが現状だ。

 そのため所得開示義務違反に関する専門家の議論ばかり取り沙汰されてしまいがちだが、外部弁護士を含めた調査では、ほかにも経費の濫用など多くの不正行為が確認されている。ルノーにおける不正行為も含め、ゴーンの不正は議論の余地のない事実である。

水面下で行われた工作

 日産のV字回復の立て役者であり、カリスマ経営者と称賛されたゴーンが不正を犯した動機はなんだったのか。誰しも疑問に思うだろう。もちろん本当の動機はゴーン自身の胸の内にあり、他人には分からない。一連の不正は個人の利益、利得が目的で、会社の成長のための行為とはいえないところで行われたものだ。ゴーン個人の事情、背景が分からなければ動機を推し量ることもできない。

 彼自身の私生活に関しては、私は他の第一世代の経営幹部(ゴーンがルノーから送り込まれた当初の日産幹部)に比べて距離があると感じていた。つまりゴーンの私的な側面についてはほとんど知らず、残念ながら多くを語ることはできない。

 しかし一つだけ心当たりがある。金商法違反に問われている所得開示義務違反についてだ。

 ゴーンは高額報酬に対する日本の世論を非常に気にしていた。これは間違いのない事実である。日産社内でも特に私より年上の日本人幹部の多くは高額報酬に対して否定的で、この件について株主総会で毎年、何度も質問されることに対し、ゴーンは極めて神経質になっていた。