「会社には二つの組織がある」
成果を出すために必要なこととは
こうした徹底したこだわりのもと、ITTは58四半期連続の増益を記録した。ジェニーンは「経営者は経営しなくてはならぬ!」と繰り返した。
短い言葉だが、彼の意味は重い。経営者の役目は方針を語ることでも、部下の報告を聞くことでもない。決めた目標が現場の行動に移り、業績になるまで手を離さないことである。
この仕組みは、ジェニーン自身の読書量と体力、緊張に耐える幹部たちに支えられていた。公開の会議で問い詰められる側には、強い負担もかかった。それでも柳井が持ち帰ったのは、ITTの会議をそのまままねる方法ではない。目標、事実、決断、実行を切り離さない仕事の作法だった。
数字は報告書を飾るためにあるのではない。売り上げを見れば、顧客が商品を選んだかが分かる。在庫には、仕入れと販売の判断が残る。利益率には、値決めや現場の無駄が出る。
数字を読み込むとは、その奥にある人の行動を読むことだ。都合のよい情報を集め、悪い知らせを整えてから出す組織では、目標はやがて願望になる。
成果を出す組織は、自分たちの計画を壊す事実ほど早くテーブルに載せる。数字は言い訳を補強する材料ではなく、自分たちの判断を疑う材料として使う。間違いが見つかれば、計画や行動をすぐに直す。
実行にも同じ厳しさが求められる。ジェニーンは、会社には二つの組織があると考えた。組織図に描かれた公式の組織と、人々が日々つくる生きた関係である。
肩書や命令だけで会社は動かない。相手が動けるだけの情報を渡し、障害を取り除き、期限を確かめ、途中のずれを修正する。任せても、結果への責任は手放さない。
柳井正が実践した
ジェニーンの教え
プレジデント社書籍編集部の桂木栄一による「プロフェッショナルマネジャーはこうつくられた」には、柳井が絶版本の復刊を2003年8月と12月の2度頼み、翌2004年の再刊につながった経緯が書かれている。
柳井は本を社員にもコピーして配った。自分の働き方を変えた考えを、組織で共有すべき基準にしたのである。
この復刊の経緯に、柳井の読み方がよく出ている。名言に線を引き、感想を語るだけでは満足しなかった。社員へ渡し、共通の言葉にし、日本の経営者にも読ませようとした。本から得た考えを、周囲の行動が変わるところまで運ぶ。それ自体が、決断を実行につなげよというジェニーンの教えの実践だった。
柳井とジェニーンは会ったことがない。2人を結んだのは1冊の本だった。その中の1行を、柳井は出店目標と日々の経営に移した。
仕事量を増やすより先に、仕事を始める場所を変えた。同じ時間働いても、出発点が違えば、選ぶ仕事も、捨てる仕事も変わる。







