「規律」として機能させる——クラダシ

 最も王道の型を示したのは、フードロス削減事業を展開するクラダシのCEO、河村晃平氏でした。

なぜ、あなたの会社のパーパスは機能しないのか――B Corp™ムーブメントが示す「相互依存」という答え日々の買い物が社会や地球をより良くするクラダシの仕組み
提供:クラダシ
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 河村氏がパネルで語った第一のポイントは「採用」です。「パーパスを気に掛けない人は、採らない」と河村氏が言い切るように、クラダシでは入社面接において必ずパーパスへの共感を問い掛け、共感できない人材は原則として採用しないそうです。パーパスは、掲げて終わりではなく、入社直後のオンボーディングから毎月の全社ミーティングまで、日々の仕事の中で何度も立ち返る時間を設けることで、社員が常にパーパスに意識を向け続けられるよう、仕組みの中に組み込んでいるといいます。

 そこまで徹底する理由は明快です。事業が困難に直面したとき、報酬や安定だけで結ばれたチームは崩れやすい。一方で、パーパスで結ばれたチームは崩れにくいという経営者としての実感があるからです。ここでは、パーパスは精神論ではなく、組織のレジリエンス(復元力)を見据えた経営戦略として機能しているのだと感じました。

 第二のポイントは、資本市場との緊張関係です。クラダシは上場企業であり、河村氏はIPO(新規株式公開)準備の経験をこう振り返りました。

 「投資家が見るのはガバナンスと成長率であり、パーパスを優先して成長速度が落ちれば、上場は2年遅れる——その緊張関係の中で、それでも『善さ』を軸に据える選択をしてきました。上場当初、売り上げの一部をNPO・NGOへの寄付に回すという方針を投資家に説明したときも、『寄付するくらいなら、配当に回してくれ』と言われたこともあります。そのため、私たちはビジネスモデルのコンセプトと、世界のためにそのインパクトを維持するという会社のDNAについて、丁寧に何度も説明し続けてきました」

 これは、パーパスを投資家にも理解してもらうための「ある種の育成期間のようだった」と河村氏は語っています。

 「パーパスの価値」が本当に試されるのは、それを守ろうとして「コストが発生する」場面です。クラダシの場合、パーパスは理念にとどまらず、あらゆる経営判断の「規律」として機能していると感じます。

「対話」として機能させる——バリューブックス

 パーパスの「浸透」に悩む日本企業にとって、最も示唆的だったのは、長野県上田市で古本の買い取り・販売を手掛けるバリューブックスの代表取締役、鳥居希氏の報告でした。

 同社は、1日およそ3万冊の本を受け入れ、1万5000〜2万冊を出荷しています。実質的に物流企業でもあり、現在、約10億円を投じてAIとロボティクスによる倉庫の自動化を進めています。自動化といえば、一般的には人員削減とセットで語られがちな経営判断です。しかし鳥居氏は、社内報で「レイオフはしない」と全社に宣言しました。

 注目すべきは、その宣言の後に起きたことです。鳥居氏はサミット直前の2週間、社内で2時間の対話を10回にわたって行い、合わせて150人の同僚と話しました。「なぜ全員の雇用を維持できると考えているのか、どう成長していきたいのか、そして、なぜそうしたいのか」といった、とても率直な対話だったそうです。

 そして、倉庫で働く全ての従業員に次の問い掛けをしました。「三つの選択肢がありますが、あなたはどんな仕事をしたいですか。今と似たようなルーティンの仕事。新しいタイプの仕事。三つ目は、社内で自分自身の手で新しい仕事をつくり出すこと」。

 これを話したとき、「社長としての仕事を放棄しているのではないか」「役割を決めるのは会社の仕事ではないか」といったさまざまな意見や戸惑いの声が上がった、と鳥居氏は率直に明かします。「でも私は、どんな仕事をしたいかを自分で決める権利、人権が、従業員一人一人にあると考えています」と語ります。

 日本企業のパーパス浸透施策は、クレドカードを作成し、研修動画や社内ポスターを用意するなど、しばしば「配布」に偏ります。しかしバリューブックスが示したのは、パーパスは配布物ではないということです。「自動化と雇用」のように利害が具体的にぶつかる場面でこそ、その意味が試される。そして「対話」を通じてこそ、本当の意味で共有されていくのです。

なぜ、あなたの会社のパーパスは機能しないのか――B Corp™ムーブメントが示す「相互依存」という答え長野県上田市にあるバリューブックスの倉庫の様子
提供:バリューブックス