「構造」として機能させる——パタゴニア
規律、対話ときて、その先を示したのがパタゴニアです。日本支社の篠健司氏が登壇したパネルで語ったのは、パーパスを「所有構造そのものに埋め込む」という、おそらく世界で最も徹底した実践でした。
読者の中にはすでにご存じの方も多いかもしれませんが、パタゴニアの創業者、イヴォン・シュイナード氏とその一族は、22年、保有する全株式を手放しました。議決権のある株式(全体の2%)はパタゴニア・パーパス・トラストへ、残る98%の非議決権株式は、環境危機と闘う非営利組織であるホールドファスト・コレクティブへと移譲されました。
篠氏は、前者の組織の存在理由をこう説明します。「パタゴニア・パーパス・トラストは、ミッションを守るためだけに存在しています」。
この仕組みの意味は明快です。経営者はいずれ交代する。市場も変わる。しかしどれだけ代替わりしても、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というパーパスから会社が離れられないように、所有のレベルで設計しているのです。パタゴニアが掲げる「地球が私たちの唯一の株主」とは、決して美辞麗句ではなく、会社の仕組みそのものになっているのです(※)。
Teri Laine©2026Patagonia,Inc.
ここでホウラハン氏の講演を思い出します。氏はBコープ認証の三つ目の要件に法的枠組みの採用を挙げ、なぜそこまで求めるのかをこう説明しました。
「株主という一つのステークホルダーにしか法的責任を負わない仕組みのままなら、今の経済システムの帰結に驚くべきではない」
パーパスの形骸化への最も強い処方箋は、善意ではなく構造にあります。パタゴニアは、まさにそれを具現化していると言えます。
※ https://www.patagonia.jp/ownership/
「言葉」を捨てても機能する——UPDATER
そして最後に紹介するのは、これまでの3社とは少し毛色の異なるパーパスの機能性です。再生可能エネルギー事業を軸とするUPDATERです。
同社には、実は明文化されたパーパスというものがありません。公式サイトにも、「UPDATERにはミッションもビジョンもありません。あるのは『面白くて儲かることをしよう』という一つの行動指針だけ」と記載されています。経営の教科書からすれば、あまりに素朴な合言葉です。パーパス策定ブームのただ中にある日本にあって、これはある種の挑発でもあります。
しかし、パネルに登壇した同社の間内賢氏の語りは、その「言葉の放棄」が意味するものを鮮やかに示していました。
間内氏が紹介したのは、1人の農家の物語です。11年の東日本大震災で多くを失った福島の農家が、耕作できなくなった土地で太陽光発電を始めました。UPDATERの電力サービスが彼と消費者をつないだとき、予想外のことが起きたといいます。
「人々は『安い電気が欲しい』とは決して言いませんでした。『彼を応援したい』と言ったのです。そのとき私たちは気付きました。電気は取引ではなく、関係性になり得るのだと」
同社が「顔の見える電力」と呼ぶこの思想は、数字にも明確に表れていて、同社の5年平均での解約率は1%を下回ります。「自分の電気料金が発電者のコミュニティーを支えていると知っている人は、3ドルの節約のために解約したりしません。私たちにとって、『意味』こそが究極の競争優位。顧客はもう、消費者ではなく、パトロン(後援者)なのです」。
太陽光パネルの下で牛を育てるソーラーシェアリング提供:UPDATER
ミッション・ステートメントを持たないUPDATERにも、社員や顧客との意味の共有や、価格競争からの離脱という、パーパスに求められる機能は、確かに実装されていました。
この事実は、私たちに根本的な問いを突き付けます。日本の会社に必要だったのは、パーパスという社会的な「言葉」だったのか。それとも、パーパス以前の企業としての社会的な「態度」だったのか。いずれにしても、見せかけだけの言葉のマーケティングの時代が終焉していることを、UPDATERの実践は静かに証明しています。







