AIZAQには、課題への取り組み方をまとめた「新たなAIを活用したDX推進の型」がある(図)。チャットボットも、この型に沿って進めた。

 まず業務プロセスを可視化し、真の課題を特定する。すると、課題はAIではなく、元のデータにあることがわかった。そこでデータを整えてから解決手段を検討したところ、AIを使わない従来型のチャットボットで十分なケースもあったという。目的はAIを使うことではなく、課題を解決すること。AIを使わないのも立派な選択肢だ。

図表:【参考】新たなAIを活用したDX推進の型AIZAQで共有している「新たなAIを活用したDX推進の型」の一部を抜粋。AIを使うかどうかは(3)の段階で見極める(オムロン提供資料をもとに筆者作成)
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 ただ、型が教えてくれるのは、外してはいけない手順まで。その先の試行錯誤は、本人に委ねている。

 伊藤さんのもとには、「これってどうしたらできますか」「こういうことってできますか」と、多くの社員が質問にやってくる。やる気は十分。だが、伊藤さんはあえてすぐには答えを教えない。「うまくいくときと、いかないとき、両方自分で経験しないと、AIとは付き合えない」からだ。

 もちろん任せきりにするわけではない。型に沿って進んでいるか見守りつつ「もう少し試してみたら」と背中を押す。自力で答えにたどり着けるよう伴走する、「教えない教え方」だ。

成功も失敗も「体験談」として全社に届ける

 一人ひとりの試行錯誤は、積極的にシェアする。AIZAQには約900人の参加者が集う社内チャットがあり、AIの最新情報や試した結果が次々と投稿される。その数は、3カ月で数千件にのぼる。

 チャットでやり取りされた知見は整理され、全社員がアクセスできるナレッジプラットフォーム「AIZAQキャンパス」に掲載される。印象的だったのは、そこで紹介される取り組みが「事例」ではなく「体験談」と銘打たれていることだ。

「事例」と聞くと、ITベンダーのサイトに載っているようなサクセスストーリーが思い浮かぶ。だが「体験談」は、あくまでその人の体験だから、必ずしも成功でなくていい。失敗も試行錯誤も貴重なノウハウ。ありのまま共有することに価値がある。伊藤さんの意図も、そこにあった。

「成功体験までもっていけたら150点。でも私は、チャレンジする原体験を提供することが、AI推進の本質だと思っています」

「丸投げした瞬間、思考は止まる」オムロンのAI推進役が明かす、AI活用を「ITベンダー任せにしない」理由「チャレンジする原体験を提供することが、AI推進の本質」という伊藤さんの言葉に、筆者は激しく共感した。忘れられない言葉になりそうだ Photo by M.S.

 伊藤さんの目下の目標は、国内社員の30%に相当する約3000人に、原体験と呼べる経験を積んでもらうこと。単にAIの利用者数を追うのではなく、その先の業務変革に挑む人を増やす。そうなれば、各部門に一人以上の旗振り役がいて、自律的にDXを進められるようになる。すでに、AIZAQのメンバーが部門のDX推進リーダーに抜てきされた例も出ているという。