部下に信頼を求める前に
自分のあり方を問い直す

 この回想には、自分の周囲にいる人を選び直せば済む、という発想から離れた経営者の姿がある。信頼できる人がいないと感じたとき、まず自分のあり方を問い直す。部下に信頼を求める前に、リーダー自身が何をしてきたかへ話を戻している。

 公正さを考えるときにも、この順番は大切だ。自分は会社のために決めた、と言うだけでは話は終わらない。部下の貢献を認める際も、失敗の責任を確かめる際も、自分に都合よく事実を省かない。自分の心を点検するという言葉を仕事に引き寄せれば、まず確かめるべきは、このような日々の報告や評価の中身だ。

 人事にも同じ問いが残る。営業成績や難しい案件を処理した実績は、昇進の理由にしやすい。人を率いる役職に就けば、その人は部下の評価や仕事の配分を決める側に回る。自分の成果を出すときには表れなかった判断の癖が、今度は周囲の働き方や処遇に関わってくる。

 だから、候補者を見る側にも仕事がある。実績を確かめるのと同時に、意見が割れたときに相手をどう扱ったか、自分に不利な情報にどう向き合ったかを確かめることだ。稲盛が第3等の資質しか持たない人の登用を問題にした言葉は、登用される本人と、それを決める人の両方に向いている。

「人望のあるリーダー」と「孤立するリーダー」を分けるのは、利害がぶつかったとき、自分の都合を判断に紛れ込ませるかどうかだ。稲盛が重んじた「常に公平で公正な判断」を疎かにして「信頼と尊敬」を失えば、リーダーはやがて組織の中で孤立していく。公正であろうとする姿勢が、自分の利益に触れる場面でも続くか。そこに、能力や弁舌だけではわからない違いが出る。

 人事評価表には、売上も利益も達成率も書ける。候補者を昇進させる前に、その人が自分にも不利な結論を出した場面を思い返してみる。思い当たらないなら、まだ確かめるべきことが残っているということであろう。

稲盛和夫が語った「人望のあるリーダー」と「孤立するリーダー」の決定的な違いとは