社喰い#29Photo:SANKEI

「積水ハウス地面師事件」の主犯格とされたカミンスカス操氏は、事件の発端となった人物として「ヒロタ氏」の名前を獄中から告発した。ヒロタ氏は、全国の中小企業を次々と買収し、M&Aトラブルが社会問題とされるきっかけをつくった通称「ルシアン事件」の関係者。本稿では、ルシアン事件を追っていた片田江康男記者の新刊『社喰い』(ダイヤモンド社)と積水ハウス地面師事件を追っていた森功氏の最新刊『地面師vs.地面師』(講談社)の刊行を記念し、2つの事件取材の舞台裏についてお届けする。(取材・構成/ダイヤモンド社書籍編集局 工藤佳子)

全国に点在する関係先
姿をくらました“謎の男”

森功(以下、森):カミンスカス操(みさお)からの手紙の中でヒロタ氏の名前が出てきて、同時にルシアン事件についても被害者の方にもあたりながらいろいろ取材して、とにかくヒロタ氏に会わなきゃ始まらないと思って、ずいぶん追いかけました。

 ルシアンホールディングスは、登記上の本店は東京・丸の内の鉄鋼ビルにある貸しオフィスだったんですよね。でも実際の本社機能は茨城県土浦市にあって、登記上のヒロタ氏の自宅も土浦にあった。それで土浦まで追いかけていって、いろいろな人にあたりました。私が取材したときも。もちろん誰もいないんだけど本社のオフィスは残っていました。

 ヒロタ氏が住んでいたアパートもあって、そのドアには「ヒロタ氏はいません」「もう引っ越しました」というような張り紙がしてあるわけですよね。引っ越した後に住んでいる人が、わざわざそんな張り紙を自分の家にすること自体が変だなとも思いました。

 ほかにもいろいろなところを訪ねて、ずっとヒロタ氏を探して回ったんですけど、結局、私の取材では見つけられなかったですね、残念ながら。本の中ではそこで終わっているので、ぜひヒロタ氏には会いたいなと、今でも思っていますけどね。

片田江康男(以下、片田江):私の場合はルシアン事件からヒロタ氏を追いかけていたんですが、その中で偶然ヒロタ氏に接触することができました。ヒロタ氏は中小企業を買うと、買った会社の登記簿を変えていくので、登記簿を取れば住所などある程度の情報が出てくる。

森:住所はいくつもあるでしょう。10カ所ぐらいあったと思います。

片田江:そうです。なので、とりあえずできることは登記に書いてある住所に手紙を書くことだったんです。同時に、当時一緒に働いたことがある方など、関係者にもいろいろと話を伺っていった。手紙も、もう闇雲に出せるところには全部出す、みたいな感じだったんですけど、そのうちの一通をきっかけに、急に電話がかかってきた。もう諦めかけて担当編集と暗い気持ちでミーティングをしていたときでした。

 ルシアン事件で被害に遭われた方ともやりとりをしていたので、私も「本当のところ、何を考えていたんですか」とヒロタ氏に聞きたかったんです。

 森さんが取材されていた2024年の夏以降って、テレビや雑誌など、いろいろなメディアが一気にヒロタ氏を追っていた時期だと思うんです。私が本格的に取材し始めたのは、少しほとぼりが冷めてきたタイミングだった。もしかしたら、そういう取材時期の違いもあったのかな、という気はします。

森:それはありますよね。取材は運とかタイミングとか、そういうのが大事で。粘り強くやって、そこにぶち当たればいいなっていうことですよね。確かにおっしゃる通りだと思います。

「ヒロタです」
突如かかってきた電話で語られたこと

――片田江記者は、ヒロタ氏とどんな話をしたのですか。

片田江:いきなり電話がかかって、電話口で「ヒロタです」と言うんですけど、声だけだと本人かどうか分からないですよね。だから半信半疑で会話を続けていくと、「自分は被害者的な立場なんだ」というようなことを言うわけですよね。

森:ありがちなパターン。

片田江:色んな事を電話で言っていた。たとえば、ルシアンホールディングスが買収した会社や関わった会社の実名を電話口で出していくので、「これは本人なんだろうな」という感じでしたね。

 声は結構落ち着いていました。私も手紙を出していたので、「手紙なんか出してくるな」と怒ってくるのかなと思ったら、まったく違った。本当のことを言いたいんだ、というような印象を受けましたね。

森:片田江さんの本を読んでいると、結構当事者に会っていますよね。粘り強く取材されていてたいしたもんだなと思いますよ。ヒロタ氏のパートナーというか、幼なじみというか、ずっと一緒にM&Aをやってきたカタヤマ氏にも会ったんでしょう。

 カタヤマ氏には当時、「大阪にいるから、ここに来たら会ってやるぞ」みたいなことを言われて、それでアポを取ろうとしたんです。「じゃあ何時にしますか」と時間を決めようとすると、「それはまた今度」みたいな話になって。その後、連絡しようとすると突然電話がつながらなくなった。「あれ?」と思って、これはすっぽかすつもりだなと。結局、最後まで会えませんでした。

片田江:同じく、私も3回ぐらい取材当日に「今日は駄目」と言われたりしています。毎週電話したり、メッセージをやり取りしたりして、「じゃあ翌週のこの日ね」と決めるんですけど、当日か前日にキャンセルされる。

 それが続いて、「これは駄目かな」と思い始めていたタイミングで、たまたま1回お会いすることができた。そこから2回目は意外と早くお会いできました。

森:1回会っちゃえばね。でも、会えただけでよかったです。たいしたもんですよ。

片田江:ただ、ヒロタ氏とは結局電話だけで終わってしまいました。電話で話しているときに、「この電話を切ってしまったら、もう二度と話したり、会ったりするチャンスがないかもしれない」と思ったんです。それで、その場ですぐ日時を決めようとしました。

 でも、「会いたいです」と言ってもはぐらかされて、「いつ、どこで会いましょう」という話にはなかなかならなかったんですね。仕方なく40分ぐらい話して電話を切りました。

 電話を切ってすぐにメッセージを送って、取材の趣旨などをいろいろやり取りしたんですけど、結局会えずじまいでした。ヒロタ氏と電話で話せたのは、その1回だけ。あとはメッセージでのやり取りという感じだったんです。

森:電話だとまだ生の声が聞けるからいいんですけど、メールのやり取りで取材するのは、なかなか難しいですよね。手紙も似たようなところがあるんだけど、まだ手紙のほうがいいかな。

 だから私がいつも心がけているのは、取材では機会を逃しちゃ駄目だということなんです。そこが一発勝負で、とにかく粘りに粘って電話を切らせない。そういうテクニックが必要なんですよね。これは私が「週刊新潮」にいた頃に先輩から教わったことで、呼吸というか、タイミングで、電話を切らせないテクニックというのがあるんです。なかなか言葉では説明しにくいですけど。だから、なんとかその場で取材に持ち込むしかないんですよね。

「自分は何も悪いことをしていない」
記者を丸め込めるという自信

片田江:カミンスカスさんと森さんは手紙でやり取りされてましたけど、お手紙って何回ぐらい往復したんですか。

森:カミンスカスとは、往復で合計50通のやり取り、向こうから25回、もうちょっとあるかな。それくらい手紙をやり取りしています。つい最近も来ましたよ。

片田江:カミンスカス氏とは、かなり手紙をやり取りされているんですね。ヒロタ氏も、私が携帯のショートメッセージを送ると、まめに返してくれるんですよね。

森:気になってるんでしょうね。

片田江:はい、こちらの動向が気になっているんだと思います。ああいう事件の周辺にいる人には、共通するマメさみたいなものがあるのかなと思いました。すごくこちらのことを気にして、情報を取りにくるというか、そういう印象がありましたね。

森:それと、ちょっとした自信もあるんだと思いますよ。「丸め込める」っていうね。だいたい彼らは口がうまくて、一見すると理論立ててしゃべっているように見えるんです。だから、よくしゃべりますよね。うまく記者を丸め込んで騙せるという自信があるからしゃべろうとするんだけど、はたと気づいて、自分が追い込まれているとなると逃げ出しちゃう、みたいなね。なかなか難しいんだけど、こういう取材の面白いところでもありますよね。

片田江:確かに、「丸め込める」と思っているんだろうなと思いました。電話で話したときも、ヒロタ氏は自分の考えをワーっと言うんですよね。さっき森さんがおっしゃいましたけど、カミンスカス氏も「自分は騙された」「巻き込まれたんだ」というスタンスで話している。手紙にもそう書かれているわけですよね。

 ヒロタ氏も同じように、「私は損をしているんだ」「皆さんが思っているような詐欺的な行為はしていない」ということを言ってくる。つまり、私に対して「自分は何も悪いことをしていない」ということをどんどん訴えてきて、記者側の考えを変えようとしているのかな、と思ったところはありましたね。

(※本稿は片田江康男記者の新刊『社喰い』〈ダイヤモンド社〉を記念した対談記事です)

森功(もり・いさお)
1961年、福岡県生まれ。「週刊新潮」編集部などを経て、2003年に独立。2008年、2009年に2年連続で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を受賞。2018年に『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞受賞。最新刊『地面師vs.地面師 詐欺師たちの騙し合い』はベストセラー『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』の続編となる。
片田江康男(かたたえ・やすお)
記者。1979年東京都生まれ。2003年ダイヤモンド社に入社。2006年より『週刊ダイヤモンド』記者。これまで取材したテーマは東日本大震災後の東京電力問題や、大手生命保険会社における金銭詐取問題など。2021年からM&A業界を取材。M&Aのダークサイドに踏み込んだ『社喰い』(ダイヤモンド社刊)が好評発売中。