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Netflixのドラマ『地面師たち』のモデルとなり、被害額約55億円と史上最大規模の事件となった「積水ハウス地面師事件」。そして、約2年間で30以上の会社が買収され、M&Aによるトラブルが社会問題化するきっかけをつくった「ルシアン事件」。別々の事件を追いかけていたはずの記者たちは、くしくも同じ「ヒロタ氏」にたどり着く。『地面師vs.地面師』(講談社、2026年)を上梓したノンフィクション作家・森功氏と『社喰い』でM&A業界に跋扈する魑魅魍魎たちを描いた片田江康男記者の対談をお届けする。(取材・構成/ダイヤモンド社書籍編集局 工藤佳子)
「私は無罪です」
有名地面師が手紙で訴えたワケ
――初めに、『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』(講談社、2018年)と、その続編『地面師vs.地面師 詐欺師たちの騙し合い』(同、26年)を森さんが書いたきっかけを教えてください。
森功(以下、森):1作目の『地面師』は、古くからの友人でもある不動産デベロッパーの社長から2015年くらいにたまたま電話があって、地面師の被害に遭ったという話を聞いたことを取っかかりに取材を始めました。
続編の『地面師vs.地面師』は、積水ハウスが55億円もの被害に遭った地面師事件で、当時主犯格とされたカミンスカス操(みさお)が刑務所の中から私宛てに手紙を送ってきたのがきっかけです。2024年の4月だったかな。面白いことが書いてあったので取材を始めました。
――カミンスカス操氏からの手紙にはどんなことが書かれていたのでしょうか。
森:初っぱなから「私は無罪です」というのが一番印象的でした。「自分は冤罪だから、事件をもう一度見直してくれないか」というような内容だったんですね。でも、地面師というのはいわゆる詐欺師だから、往々にして「自分は無罪です」とか、「自分はだまされただけだ」「成り済ましに自分もしてやられたんだ、巻き込まれただけなんだ」という言い訳をするんです。だからカミンスカスから手紙が来たときも、「またか」というふうに見ていた。
ただ、その中で一つだけ気になる文章がありました。それは、「(積水ハウスの地面師事件は)もともとエマイユのヒロタから話を持ち込まれて、私はそこに巻き込まれたんだ。エマイユのヒロタに話を聞けば、全てが分かります」というようなことだったんですね。
私自身もヒロタ氏の名前には心当たりがあって、積水ハウス事件に一番最初から関わっていたのがヒロタ氏だったんです。ところが、いつの間にか事件の中から消えていった人物だった。それで、カミンスカスの言っていることもあながち間違ってないかもな、と思って文通を始めました。
エマイユというのは、前作の『地面師』の中でもE社として登場している、不動産とアパレルの両方をやっていた会社です。
――カミンスカス氏の手紙で名指しされたヒロタ氏は、どのような人物だったのでしょうか。
森:取材の過程で、ヒロタ氏は30社余りの会社を買収しているM&Aトラブルを起こしていることも分かりました。実際に被害者にも会ったりして、それがヒロタ氏を取材する取っかかりになりました。
積水ハウス事件にはいろいろな人が関わっているんですけど、一番最初に関わったのは、北田文明という人物と内田マイク、ヒロタ氏の3人だったんです。言うまでもなく内田は積水ハウス事件の主犯で、北田は不起訴になりましたが、別の地面師事件で逮捕、起訴され、現在は収監されています。
もともと北田が内田マイクとヒロタ氏の両方に、「これはすごい土地だから、仕事として仕上げればカネになる」というような話を持ちかけた、と聞いています。そこが積水ハウス事件のスタートですね。
Netflixのドラマ『地面師たち』で言えば、一番クローズアップされたのは、豊川悦司さんが演じたハリソン山中ですよね。ハリソン山中のモデルはおそらく内田マイクでしょう。彼がボスとして計画を立案して、いろいろな成り済ましを仕立てたり、自分の右腕となる人物を連れてきたりする。綾野剛さんが演じた辻本拓海は、おそらくカミンスカスをモデルにしているんだと思います。
一方、北田文明はドラマには出てきません。積水ハウスが被害に遭った地面師事件では逮捕されたものの、起訴されていないんです。ヒロタ氏に至っては調書も残っていない。だから、この2人についてはドラマからも抜け落ちていますね。
――ちなみに、内田マイク氏と北田文明氏は、どういう関係だったんでしょうか。
森:北田は内田よりも少し年下なので、最も尊敬する地面師が内田マイク、という位置付けじゃないですかね。内田は成り済ましを仕立てるのが得意で、今の地面師の主流を歩んできた。一方、北田は手付金詐欺や融資詐欺などを得意にしていた。
簡単に言うと、手付金だけ受け取って、所有権を移転させないままドロンしてしまう。積水ハウスの場合、最初に手付金12億円と仲介手数料2億円、合わせて14億円を地面師側に支払っています。当初はその14億円だけを取ろうとしていた節がある。積水ハウス事件も、最初は手付金詐欺だったんですよ。
ところが途中からカミンスカスが「積水ハウスは本当に買うつもりですよ」と言い出して、「それが本当にできるなら、じゃあ売ってしまおうか」となった。最終的に70億円で売却し、実質的な被害額は55億5000万円になった。そういう事件ですね。
一つにつながった二つの事件
M&A業界への衝撃
――そして、カミンスカス操氏が手紙の中で真の主犯だとして名指ししたヒロタ氏は、片田江記者の新刊の『社喰い』で描かれたルシアンホールディングスの代表者として登場します。こちらの事件は、一体どういう経緯で取材されていたのでしょうか。
片田江康男(以下、片田江):ヒロタ氏が代表を務めていたルシアンホールディングスによるM&Aトラブルは、2023年の年末くらいから業界内で話題になっていたんです。その後、2024年5月に「朝日新聞」で取り上げられ、大きな社会問題として捉えられるようになりました。それをきっかけに、私もルシアンホールディングスの取材に入っていったという経緯があります。
この、いわゆる「ルシアン事件」というのは、ルシアンホールディングスが日本全国でいろいろな中小企業を買収して、傘下に収めた会社から資金を抜き取ったりしていたというものです。また、買収された会社の元経営者が抱えていた経営者保証は、本来であれば買収後に外れなければいけないわけですけど、それが外されないまま放置されている。そういった問題を起こしていました。
――ヒロタ氏は何を目的としていたのでしょうか。
片田江:ヒロタ氏は失踪癖がある方だったようで、2023年12月末に急にいなくなってしまったんです。なので、ヒロタ氏がどういう意図を持っていたのか、本来はどういう計画だったのか、何を考えていたのかということは誰にも分からなかった。
そんな中で、2026年2月に『地面師vs.地面師』が発売されました。M&A業界の人たちが読んだ途端に、「えっ?」となって、すごく話題になったんです。ルシアンのヒロタ氏は失踪していて、われわれは当事者に当たれない。そのヒロタ氏が、実は積水ハウスの地面師事件にも関わっていたんだということを、みんな初めて知って、本当にびっくりしていました。
まったく別のものとして考えていた地面師事件とルシアン事件がヒロタ氏によって一気につながった。だから今回、『社喰い』の原稿を書くときも、隣に『地面師vs.地面師』を置いて、何度も読み返していました。
森:不思議な感じですよね。両方の事件にかなり深い部分で関わっているのが、このヒロタ氏だということですね。







