社喰いPhoto:SANKEI

「自分は騙された」「むしろ被害者だ」――。地面師事件やM&Aトラブルの当事者たちはそれぞれ異なる「真実」を語り始める。数々の経済事件を追ってきたノンフィクション作家・森功氏と、M&Aの闇を取材してきた片田江康男記者が語る、嘘と真実が入り交じる取材の難しさと面白さとは。片田江記者の新刊『社喰い』(ダイヤモンド社)と森功氏の最新刊『地面師vs.地面師』(講談社)の刊行を記念し、二人の対談をお届けする。(取材・構成/ダイヤモンド社書籍編集局 工藤佳子)

「偉い人ほど嘘をつく」
騙される覚悟で付き合っていく

――『社喰い』(片田江康男・著)や『地面師vs.地面師』(森功・著)を読んでいると、経済事件ではいろいろな人がそれぞれの意図を持って蠢いていると感じます。真偽の怪しい取材対象とはどう向き合っているのでしょうか。「この人の話はおかしい」と気づくポイントはあるんですか。

森功(以下、森):いっぱい詐欺師を見てきたけど騙されますよ、詐欺師には。向こうはプロで、こっちは素人だし。詐欺師の共通点はいっぱいありますけど、往々にして「自分が騙された」という形で事件を組み立てて、誰かのせいにするんですよね。

 Aという人は「Bに騙された」と言うし、Bは「Aに騙された」と言う。だから両方の話を聞くわけです。でも、二人ともまったくの嘘をついているかというと、そうでもない。だいたい本当のことが、その中から出てくるんですよ。

 多くの事件にはほかにもいろいろな登場人物がいるから、そういう人たちからもたくさん話を聞いていく。そうすると、なんとなく「あ、これは本当のことだな」「これは違うな」というのが見えてくる。

片田江康男(以下、片田江):そこは、今回の取材で一番難しかったところですね。話を聞いていて迷うことも、惑わされることもありました。これまでは、上場企業を取材することが多かったんです。上場企業だと開示されている資料もたくさんあるし、あまり嘘をつかないじゃないですか。「この人の発言は本当かな」と思ったときに、それを確かめる手段もそれなりにある世界なんです。

 でも、今回の取材では、みんな好き勝手にいろいろなことを言っていました。それが本当なのかどうかを確かめるのがなかなか難しい。「この人が言っていることは本当だ」「これは嘘だ」と確信を持って判断することがなかなかできなくて、非常に難しい取材でした。

 そもそも取材対象者に会うのも難しかったですし、いざ会ったところで、本当のことを言っているのかどうかを判断するのも難しかったですね。

森:難しいですよね。

片田江:森さんが色んな人物を取材するときに、どういうポイントから「これは真実っぽいぞ」というヒントを得られているのか、すごく興味があります。

森:ケースバイケースでなんとも言えませんが、一番心がけているのは、とにかく話をたくさん引き出すことですかね。たくさん引き出した中のどこかに嘘が紛れ込んでいる。だいたい嘘というのは裏の取りにくい話をするんだけど、その中で「裏の取れる嘘」をぽろっと言ってしまうこともあるわけですよね。そこを突いていくと、真相が少し見えてくるみたいなところがある。

 さっき上場企業の人はあまり嘘をつかないと言ったけど、決してそんなことはないです。社長でも会長でも、もしくは政治家でも、偉い人ほど結構嘘をつくんですよ。だから、それをどうすくい上げるかというのが一番大事。我々の仕事ってそういうことなのかもしれない。ちょっと偉そうになってしまいますが、そんな気がしています。でも、それはある意味、騙される覚悟で付き合っていく必要もある、ということでしょうかね。抽象的ですけど。

「フィリピンパブで豪遊」「女性にモテる」
真面目で享楽的な地面師の生き様

――『地面師vs.地面師』では、上場企業でもある積水ハウスの描かれ方が印象的でした。

森:積水ハウスが55億円の被害に遭った地面師事件は、そもそも積水ハウスが本当に騙されたのか、実際はどうだったのかという謎がすごく多い事件なんです。『地面師vs.地面師』では、そこを一つひとつ解明しています。

 また、前作『地面師』で描いたほかの事件は一体どういう顛末になっているんだろうか、みたいなところも含めて、もう一度取材した。地面師事件に再チャレンジしたという本ですね。

 結論から言うと、積水ハウスは単に騙されただけではないと思います。カミンスカス操(みさお)が本当のことを言ってるのかどうかは分からないけど、少なくとも積水ハウスがカミンスカスと行動を共にしてた時期があったりするんです。その部分について、積水ハウス側は一切説明しないんですよね。というか、説明できないのかもしれない。

 政治家なんかではよくありますが、説明できないっていうのは大体当たってるんですよ。あんまり軽くは言えないけど。そんなところですかね。

――ありがとうございます。カミンスカス操氏が手紙の中で森さんを篭絡しようとしているのか、不思議な距離感が面白かったです。字が綺麗だったりするのも生々しいなと思いました。

森:意外とこちら側の質問に対しても丁寧に受け答えをしてくれるんですよね。真面目なところもあると思うんですよ。ほかの地面師たちに聞いたら、カミンスカスって真面目だよっていう人も結構います。

――フィリピンパブで豪遊しているみたいな話もありましたが、一方で真面目な一面もあったんですね。

森:彼ら独特の刹那的な生き方ですよね。大概そうなんです。女好きだし。

片田江:M&Aトラブルが社会問題化した「ルシアン事件」の関係者であるヒロタ氏も、一緒に働いていた方に話を聞くと、「優しい」とか、「不動産業界にはいないタイプの当たりのソフトさがある」とか、「感じがいい人」という話が出てきました。あと、「女性にモテた」というのも複数の方がおっしゃっていましたね。

 さっき、まめなところが似ているかもしれないと申し上げましたけど、そういうところもカミンスカス氏とヒロタ氏の共通点なのかなと。

 取材でその人の人物像の一部しか知ることはできないですけど、少なくとも取材した中ではそういう共通点があって、すごく興味深いところでしたね。

森:似ているような気がしますよね。

平均年収2000万円超も
M&A仲介という“不思議な世界”

――片田江記者は『社喰い』が初の著書となりますが、いかがでしたか。

片田江:もともと「ダイヤモンド・オンライン」で「M&A仲介 ダークサイド」という連載をしていて、中小企業のM&Aで起こるさまざまなトラブルや、問題のある買い手などを取り上げてきました。そこに大幅に追加取材をして書いたのが『社喰い』です。

 先ほどお話ししたルシアンホールディングスは第三章で取り上げています。そのほか、船井電機、ミュゼプラチナム、たくさんの会社を買収してトラブルを起こしたマイスホールディングスなどの実例を取り上げています。そこに関わってくる仲介会社や、いろいろなM&Aブローカーのような人たちにも話を聞いて書いた本です。

――本の後半には、不動産ブローカーのような人がM&Aのブローカーもやっている、という話も出てきますよね。

片田江:そうですね。不動産仲介業には法律で業法があって、手数料にも上限が決められています。一方、不動産の取引ではなく会社の売買であるM&Aの仲介に関しては、そういった業法がない。業法でガチガチにルールが決まっている不動産の世界で仲介業をやっていた方にとっては、M&A仲介業界が無法地帯に見えるみたいです。「手数料取り放題」ということで、不動産仲介業をやっていた方がM&A仲介も手がけていく。そこでブローカーとしていろいろなやり取りをして、お金を稼いでいくという姿も見えてきましたね。

森: 『社喰い』を読んでいて面白かったなと思ったのは、M&A仲介会社ですよね。手数料だけもらって大儲けしている。平均年収2000万円以上で、1億円稼ぐ人もざらにいるっていうね。

 単に仲介するだけでそれでそんなに稼いでいる連中がいるというのは、不思議な世界だなと思いますね。でも、世の中そういうふうなことで成り立っているのかなと思いますね。

片田江:もちろんM&A仲介に関わっている方が全員悪いということではないんです。M&A仲介にはニーズもありますし、「ちゃんとM&Aをやらなきゃいけない」と取り組んでいる方もたくさんいらっしゃいます。全員悪いと言っているわけではない。

 ただ、そういうトラブルが起きやすいというのは間違いないのかなと、取材していて改めて思いましたね。

――森功さんの『地面師vs.地面師』(講談社)と、片田江康男記者の『社喰い』(ダイヤモンド社)は全国の書店およびオンラインサイトにて好評発売中です!

(※本稿は片田江康男記者の新刊『社喰い』〈ダイヤモンド社〉を記念した対談記事です)

森功(もり・いさお)
1961年、福岡県生まれ。「週刊新潮」編集部などを経て、2003年に独立。2008年、2009年に2年連続で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を受賞。2018年に『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞受賞。最新刊『地面師vs.地面師 詐欺師たちの騙し合い』はベストセラー『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』の続編となる。
片田江康男(かたたえ・やすお)
記者。1979年東京都生まれ。2003年ダイヤモンド社に入社。2006年より『週刊ダイヤモンド』記者。これまで取材したテーマは東日本大震災後の東京電力問題や、大手生命保険会社における金銭詐取問題など。2021年からM&A業界を取材。M&Aのダークサイドに踏み込んだ『社喰い』(ダイヤモンド社刊)が好評発売中。

Key Visual by Kaoru Kurata, Kanako Onda