技術を教え、在庫のリスクを負う
柳井正の仕事哲学とは?
有賀氏の連載には、柳井氏が掲げた「品質は世界最高、コストは世界最低」という要求も出てくる。品質か費用のどちらかを諦めれば、競合にもできる仕事になる。難しい両立を目指してこそ競争に勝てるという考えだった。
ファーストリテイリングの『Annual Report 2005』を開くと、こうした要求を支える会社の仕事が見える。
日本の繊維産業で経験を積んだ技術者を集めた「匠チーム」が、中国の委託工場で縫製や工場管理を指導していた。
教える相手は、取引先の工場の人たちだ。匠チームは上海を拠点に活動し、糸をつくり、染め、編む作業も指導していた。上海の生産担当者も週1回、工場を訪ねて品質を確認していた。
有賀氏の連載第28回にも、日本のベテラン技術者が現地で品質や生産効率の改善を教える様子が記されている。長年にわたって身につけた作り方を、工場の若い技術者へ伝える。発注先を探して契約するところから、相手の工場を育てるところまで、ユニクロは仕事を広げていた。
さらに同じ年次報告書は、原材料を全量買い取るほか、中国の生産委託工場に発注した商品も全量買い取っていると説明している。
売れ残る危険を自社が引き受け、工場とは長期の取引を続けながら技術を伝える。そのうえで、生産費用を下げる方針だった。注文を受けた工場にとっては、発注された商品を引き取ってもらえる仕組みだ。ユニクロには、その服を売り切る責任が残る。
これは当時の会社が公表した事業モデルだ。取引先への要求とともに、自社の負担も書かれている。柳井氏の経営を評価するなら、技術を教え、在庫のリスクを負うところまで含めて見る必要がある。品質と費用の難しい両立を掲げた経営には、実務の裏付けがあった。
柳井正が激怒した
「極めて少ないミス」とは?
その会社で社員が口数を減らしていたことは、やはり気になる。
柳井氏は、新潮社の『波』2021年12月号に寄せた書評「僕はまだまだ甘かった。」で、さらに自分にも社員にも厳しくすると書いている。同じ文章で、働く人の表情や作業のしにくさを見て、話をして改善するとも述べた。経営者の仕事として挙げたのは、「労働環境をよくして現場のストレスをなくすこと」であり、そうしなければ良い製品はできないというのだ。
社員に自分で考えて動くよう求めるなら、その社員の話を聞く時間も要る。柳井氏自身が語った方針に照らしても、冗談の意味さえ警戒される職場は、見過ごせない状態だ。
ではそもそも、柳井氏は何にそんなに激怒していたのか。
生産部門で柳井氏が激怒していた理由の一つは、月にわずか約20件の品質問題だった。
有賀氏は「ユニクロの事業規模で月間20件というのは、一般的な感覚では極めて少ないと言えるでしょう。発生率で見れば、競合ブランドのおそらく1/10以下だったのではないでしょうか」と述懐するが、柳井氏は納得しなかった。







