フランス国債の急落は欧州金融危機を招くのか

 フランスはEU第2位の経済大国である。ギリシャの財政危機でも欧州全体が混乱したことを考えれば、フランス国債が大きく動揺した場合の影響は計り知れない。

 国債価格が急落すれば、それを保有する銀行や保険会社に打撃が及ぶ。不安がイタリアなど他のユーロ圏諸国の国債に波及すれば金利上昇が連鎖し、融資の縮小を通じて実体経済にも影響が及ぶ。

 もっとも、現在のフランスと2010年代のギリシャでは事情が異なる。当時のギリシャなど一部の南欧諸国は、大きな経常収支赤字を抱え、国外からの資金流入に依存していた。それに対して、現在のフランスの経常収支はおおむね均衡している。また、欧州中央銀行(ECB)には、国債市場の混乱がユーロ圏全体に波及するのを防ぐため「伝達保護手段(TPI)」が整備されている。

 ただし、TPIによる国債購入は無条件ではない。ECBは、財政・経済政策の適切さやEUの財政ルールの順守状況、債務の持続可能性、市場の混乱が各国固有の要因によるものかなどを総合的に判断する。

 フランスは現在、EUの過剰財政赤字手続きの対象となっている。これだけでECBの支援が自動的に排除されるわけではないが、財政再建の進展や債務の持続可能性に対する評価は、TPIの適用を判断するうえで重要な要素となる。

独仏の失速で欧州の防衛力が揺らぐ…日本にも迫る財政リスク

 独仏の不調の影響は、経済にとどまらない。

 2024年にマクロ経済の羅針盤として発表された「ドラギ・レポート」では、米中に抗するために欧州全体でAIなどへの巨額の追加投資が必要だと主張されたが、EU経済の推進力だった独仏が機能不全に陥ったことで、未来への投資財源の捻出は行きづまっている。

 とりわけ深刻なのが、安全保障への影響だ。フランスはEU唯一の核保有国であり、欧州の防衛力強化を主導してきた。ロシアの脅威に備えて欧州が再軍備を急ぐなか、その中核国が財政危機に陥れば、防衛費の拡大も、EU共同債による財源確保の議論も停滞しかねない。

 経済停滞が欧州安全保障の弱体化に転化するおそれすらある。

 ドイツは製造業の競争力によって、フランスは国家主導の産業政策と社会保障制度によって、豊かな経済を築いてきた。いずれも長年の成功を支えた仕組みが、時代の変化への対応を阻んでいる。その病は、ドイツでは産業転換の遅れとして、フランスでは国家財政への信用低下として表面化した。

 日本の政府債務残高はGDP比でフランスの約2倍に達し、長期金利も上昇している。

 日本は自国通貨建て国債を発行し、日本銀行が独自の金融政策を運営できる。フランスの国債危機を、そのまま日本の将来像として描くことはできないものの、「経済成長が弱く、財政赤字の縮小が政治的に難しい場合、国債市場の信認が問題になる」という教訓は日本にも通じる。

 経常収支がおおむね均衡しているフランスでさえ、財政悪化への懸念や政治の不安定化を背景に、市場の信認が揺らいでいる。財政への信頼は、一度失えば取り戻すのが難しい。日本においても、財政への信認が低下し、国債市場の混乱につながるリスクについて、常に監視を怠るべきではない。

「欧州の病人」と呼ばれる二大国が直面しているのは、単なる景気後退ではない。過去の成功モデルから脱却できず、構造変化への対応が遅れているという、根深い問題である。

(評論家、翻訳家、千代田区議会議員 白川 司)