それは、「自分たちもやっています」という言葉だ。

 2021年、品質について語り合うトヨタの大会、第56回オールトヨタTQM大会の特別企画『品質の豊田章男塾』での発言だ。豊田氏は、こう答える人が「ちょっと違うことに気付いていない」と指摘した。社内の取り組みを説明する返答としては、何の問題もなさそうに聞こえる。それが、「日頃感じているNGワード」に入っていた。

豊田章男トヨタ自動車会長の豊田章男氏 Photo:AFP=JIJI

 すでに取り組んでいるなら、相手の話を詳しく聞く理由はむしろ増える。何を変えたのか。何がうまくいったのか。自分たちのやり方と比べれば、聞くべきことはいくらでもある。それを実施済みの報告で終えるのは、もったいない。似た仕事をしているからこそ、その小さな違いに価値がある。

 すでに取り組んでいるからといって、改善の余地がないとは限らない。大切なのは、現状に満足せず、さらに高い水準を目指すことだ。

 では、より高い水準を目指すには、どのような働きかけが有効なのか。

「最善を尽くせ」よりも
効果的な指示の仕方とは?

「最善を尽くせ」という励ましより、具体的で難しい目標を示したほうが、成績は高くなる。心理学者のエドウィン・ロック氏とゲイリー・レイサム氏が、2002年に『American Psychologist』で発表した論文の主要な知見だ。

 35年間の目標設定研究を整理したこの論文は、「最善」に明確な基準がなく、どこまで達成すれば十分かを人それぞれに決めてしまう点を挙げている。目標に取り組む意思と、進み具合を知る情報も重要だ。難しい数字を掲げれば自動的に成果が出る、という研究ではない。

 論文が紹介する木材輸送の事例はわかりやすい。対象は36台のトラックで、12カ月にわたり積載重量を記録した。運転手たちは最初の3カ月間は、最善を尽くすよう求められていた。その後、法律で認められた積載重量の94%を目指すという目標が設けられた。積載率は、それまでの約60%から約90%へ増えた。