ラフに話しかけているのに、相手がきっちりとした敬語を崩さない場合。それは礼儀正しさかもしれませんが、「これ以上は近づかないでください」という線引きの可能性もあることを忘れてはいけません。

 敬語は、距離を表す言語です。気づかいができる人は、「この人は、私とどの距離にいたいのか」を察して言葉選びをします。

踏み込みすぎるのはNG
初対面で避けたい質問

 初めてお目に掛かった人や、まだ心の距離が測りきれていない相手に対し、こんな質問を重ねてはいないでしょうか。「どちらにお住まいですか?」「お勤め先はどちら?」「ご出身校は?」「ご結婚されています?」「お子さんはいらっしゃるんですか?」――何気ない会話のつもりでも、これらはすべて相手のプライバシーの核心に触れる内容です。

 住まい、職業、会社名、出身校、家族構成、婚姻の有無。どれも個人情報であり、踏み込み方を誤れば、無作法という印象を与えます。親しくもない間柄で相手の素性を探ることは、親密さの構築ではなく、ただの「失礼な人」。個人のアイデンティティに直結する話題には、不用意に触れてはなりません。

 さらに気をつけたいのは、相手が答えを濁したときの対応です。「まあ、そのあたりです」「普通の会社ですよ」「いろいろですね」と曖昧にされたのに、「それはどの辺ですか?」「何という会社?」「具体的には?」と追い打ちをかけてしまう人。これこそが“距離感のない人”の典型です。一流の距離感とは、濁されたら即座に察してすっと引き、答えない自由を尊重すること。その引き際の美しさが、品格の差として表れます。

『大人がしている 気くばりのある話し方』書影『大人がしている 気くばりのある話し方』(諏内えみ、明日香出版社)

 では、どうしても尋ねる必要がある場合は?

 鍵は「自己開示先行の型」です。いきなり質問するのではなく、まず自分のことから話し始める。「私は品川区に住んでいるのですが」「私は教育関係の仕事をしていまして」と、先に自分の情報を差し出す。相手がこの範囲なら開示してもよいと判断すれば、自然と話しやすくなります。これがフェアな会話というものです。自分は何も語らず、相手にだけ詳しく聞くのは大変失礼に映ります。

 なお、年収や婚姻の状況といった、より深いプライバシーについては、聞くこと自体を控えるのがマナーです。どれほど場が和んでいても、そこには踏み込まない。その節度こそが品というものでしょう。