ビジネスの世界では「話し方」一つで大成功を手にすることもあれば、大損失を被ることもあります。ただし、口がうまいからと言って仕事ができるわけではなく、むしろ口下手の方が結果を出すケースも少なくありません。ビジネスで求められる実践的「話し方」とは?この特集ではあなたの「話し方」を劇的にアップデートする書籍を厳選しました。今回は『話さなくても相手がどんどんしゃべりだす「聞くだけ」会話術』から、営業成績が劇的に上がる!相手が心を開いて話してくれる裏ワザ「ペーシング」についてお届けします。(ダイヤモンド編集部編集長 山口圭介)

あなたの「話し方」が変わる!『話さなくても相手がどんどんしゃべりだす「聞くだけ」会話術』Photo:PIXTA

話し相手をしっかり観察することが
コミュニケーションの達人への近道

 学生時代、銀座でバーテンダーをしていました。語学のクラスの友人に誘われ、女性にモテるかなと甘い考えで働き始めたのです。

 不純な期待とは裏腹に、うらびれたコリドー街(今でこそナンパ通りとして名を馳せていますが、当時は人通りもまばらでした)の地下にあるさびれたバーとあって、お客さんは一癖も二癖もあるおじさんばかり。入店してすぐに「話が違う」と激しく後悔しました。

 バーデンダーの仕事はお酒を作るだけではなく、カウンター越しの会話でお客さんをもてなさないといけません。当然、上京したての若造が海千山千の常連さんに相手にされるわけもなく、当初は空回りする日々でした。

 バーのオーナーからは「お客さんをよく見ろ」と何度も怒られました。「グラスや灰皿に目配せするだけじゃなくて、今日は疲れてるのか、飲みたい気持ちなのか、ゆっくりしたいのか、話したいのか、相手の仕草や表情をよく見ろ」と。

 そんなの無理だよとこぼしつつ、数年かかってこれができるようになると、初来店のお客さんとも気難しい常連さんとも自然体で会話できるようになるから不思議なものです。

 記者となって、取材相手の懐に入り込み信頼を得ることが労せずできたのも、このバーで観察眼を鍛えられたからだと今では感謝しています。

『話さなくても相手がどんどんしゃべりだす「聞くだけ」会話術』では、売れない営業パーソンだった主人公が、バーのマスターなどの助言を得て成長していくストーリーが描かれています。著者でコミュニケーション心理トレーナーの松橋良紀氏は、信頼されるために必要なのは「一生懸命話すことではありませんでした。むしろ、話をする相手として認められるためには、相手と波長を合わせるスキルこそ必須」と指摘しています。

 本書では、観察眼が重要となるこのスキルを「ペーシング」と表現しています。松橋氏によれば、ペーシングには、体の使い方、声の使い方、言葉の使い方の三つのポイントがあり、体の使い方とは、姿勢、手の動き、足の位置、表情など、体の動きを相手と合わせることだそうです。

「相手と合わせるためには相手の動きをしっかり観察しないとできない、という当たり前のことに気づきます。また、話を聞く時に相手の体の使い方など気にしたことはなかったので、最初はかなりの努力が必要でした。しかしそのうち相手の動きに合わせることがスムーズになってくると、明らかにお客さまとの関係が変わっていったのです。

 それまでは、初めてお会いするお客さまとは、警戒心もあるので、会話が盛り上がりませんでした。そして、ついつい自分がしゃべりまくってしまっていたのです。しかし、ペーシングを意識するようになってから、心を開いて話をしてくれる人が増え、営業成績が劇的に上向き、まるで上昇気流に乗ったかのようでした」(松橋氏)

 松橋氏は、手の動き、姿勢、重心、目線など、いろいろな「ボディ・ランゲージのペーシング」があるとした上で、「いずれを使う場合も、相手の動きをよく観察することが、とても大切です。相手に関心を持ち、しっかり観察すること。これこそ、コミュニケーションの達人への近道なのです」と強調しています。ペーシングという裏ワザを会得すれば、ビジネスでも大きな成果が期待できそうです。

『話さなくても相手がどんどんしゃべりだす「聞くだけ」会話術』は、「7割が事実、3割はフィクション」という松橋氏の実体験に基づいた内容だけに、実際の営業に役立つヒントが盛りだくさんです。

『話さなくても相手がどんどんしゃべりだす「聞くだけ」会話術』の本文はこちら

書影『聞くだけ会話術』

はじめに/目次/第1章 「アゴ」を合わせれば相手はしゃべりだす!
第2章 「オウム返し」で相手の本音を引き出す!
第3章 「仕草をまねる」だけで共感は得られる!
第4章 「たった3秒のガマン」で、もう会話が途切れても怖くない!
第5章 わずかな変化も見逃さない! 聞くことも話すこともまずは相手を「観察」することから
第6章 「地図」の寓話と、「伝える」ことのほんとうの意味
第7章 最後の授業/あとがき──解説と、告白と

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