「自分の子」より「姉妹」のほうが
遺伝子的に近い

 準備は整いました。血縁の度合いを使って、働きアリにとっての自分の遺伝子の存続の見込みの定量を始めましょう。ハミルトンは次のようにして、自分の子を産み、育てる場合と、姉妹の世話をする場合で、どちらが自分の遺伝子を多く残せるのか計算したのです。

 まずは、働きアリがメスの子を産んだ場合を考えてみましょう。その子がもつ半分の遺伝子は、自分と全く同じです(残り半分は、オス親の遺伝子です)。子は、半分(50%)だけ、自分と同じ遺伝子をもつということです(図3-5の母親と働きアリの関係にあたります)。

図3-5 3/4仮説同書より転載 拡大画像表示

 次に、働きアリと姉妹との間の遺伝子の共有具合はどうなっているのか確認してみましょう。

 すべての姉妹の父は同じだと考えます。父が同じなのですから、父から受け継ぐ遺伝子だけで、子を産んだときと同じ分の遺伝子(=50%の遺伝子)を、姉妹同士は共有します。

『不老長寿の進化学 我々はなぜ「死」を選んだのか』書影『不老長寿の進化学 我々はなぜ「死」を選んだのか』(山田俊弘 ブルーバックス、講談社)

 遺伝子の共有はそれだけではありません。母(=女王アリ)由来の遺伝子も、姉妹間では共有されています。姉妹の間では、母から受け継いだ遺伝子のうち、半分が共有されているはずです(母の卵から任意の2つを取り出して、その2つで相同染色体の重なりを定量すれば、平均して半分の相同染色体がお互いに被っていることが期待できるのでしたね)。そう考えると、姉妹間では75%の遺伝子が一致していることが期待できます。

 つまり、働きアリにとっては、遺伝子が50%同じ子を作るより、女王アリに自分と75%同じ遺伝子をもつ姉妹を作らせたほうが、自分の遺伝子の存続可能性が上がるのです。

 これが働きアリが自発的に、女王アリや姉妹に対して利他行動を行う内的な動機付けと考えられています。姉妹間で75%の遺伝子が共有されることがカギなので、この考えは3/4仮説と呼ばれます。

 ダーウィンを苦しめた生物界のミステリーは、遺伝子の存続可能性というレンズで読み解くことで、見事解決に至ったのです。