この時、最初の病院にもセカンドオピニオンの病院にもなぜ理髪店があるのかがわかりました。それは脱毛を迎え撃つ決断をした人たちのため……なのです、きっと。

 どうせ全部抜けるのです。バッサリ切って、新しい自分との出会いを楽しみにすることにしました。

抗がん剤を打ちながら
病室で「散髪式」

 やると決めたらすぐにやりたくなるのが笠井信輔。院内理髪店に「抗がん剤投与中でも散髪してもらえますか」と聞くとOKとのこと。しかもたったプラス500円で病室まで出張散髪に来てくれるというのです。さすが病院の床屋さん。

 1回目の抗がん剤投与中、約束の15時30分にベテランの女性理容師さんが笑顔とともに登場しました。「バッサリ切る」という意思の確認が行われ、抗がん剤を注入しながらの散髪が始まりました。

 髪を切ってもらいながら話を聞いて驚きました。担当の理容師さんはこの病院で生まれていました。それだけでなく、お子さんを2人、自分が生まれたこの病院で産んで、院内理髪店に勤めて18年!まるでこの病院の申し子のような方だったのです。そんな方に散髪してもらえてなんだか光栄でした。

 やはり、抗がん剤治療の前に理容室に来る患者さんが多いそうで、1日1人くらいは、そうした患者さんだそうです。ただ、怖気づいて帰ってしまう人もいるんですって。そういう人に限って、翌日再びやってきて髪を切ってゆくそうです。

 抗がん剤治療を受ける男性は丸刈りにする人が多いとか。

「笠井さんも丸刈りでいいですか?」

「あのー……、高校球児ではなく、ちょっとオシャレなプロ野球選手のような感じにしてもらえます?」

 まったく潔くない!でもね、本人としては、脱毛のショックを受けないように事前に切るわけでして、散髪でショックを受けてしまっては、これまた本末転倒なのです。ですから、どうしても丸刈りの決断ができませんでした。

 それでも、信じられない量の髪の毛がバッサバサ床に落ちてゆきます。

「大変、笠井さん毛量多いですね。こんなに切らなきゃいけない人、めったにいないですよ。私が腱鞘炎になっちゃいますよ」