トランプ政権が狙う「MAGA型」の国連事務総長

 ヴィクトル・オルバン氏は、1998年から2002年、そして2010年から2026年まで、通算約20年間にわたりハンガリー首相を務めた政治家だ。

 大量移民の受け入れに反対し、国家主権を重視するとともに、リベラルなNGOや司法、メディアとの対立を繰り返してきた。

 自ら「非自由主義的民主主義」を掲げ、EU(欧州連合)の主流派とも激しく対立してきた。その政治路線は、トランプ大統領のMAGA(アメリカを再び偉大に)運動と重なる部分が多い。

 トランプ氏もオルバン氏を高く評価しており、今年4月のハンガリー総選挙では再選を支持した。バンス副大統領も応援に駆けつけたが、オルバン氏率いるフィデスは敗北し、16年間続いた政権は終わった。

 そんなオルバン氏を国連事務総長に据えようという構想には、トランプ大統領の「国連観」というべきものが反映されている。

 トランプ大統領は国連を官僚的で非効率な組織とみなし、拠出金の抑制や国連機関からの撤退などを通じて改革を迫ってきた。こうした財政圧力を背景に、グテーレス現事務総長は「UN80」と呼ばれる大規模改革を進めている。

 2026年の国連通常予算は約34億5000万ドル(約5400億円)となり、前年の承認予算から約7%削減された。

 国連事務総長候補には国際機関の官僚や外交官経験者が多いが、オルバン氏には長年国家を率い、EUの主流派と対立しながら独自の政策を進めてきた経験がある。WSJによれば、米国務省関係者はオルバン氏をMAGA保守派にとって理想的な候補者と位置づけ、国連の既存体制にもひるまない人物だと評価しているという。

 今回の構想には、国連の既存体制に変革を迫ろうとするトランプ政権の姿勢が反映されている可能性がある。

中国とロシアがオルバン氏を支持できる理由

 今回の構想で最大の疑問は、なぜ中国とロシアがオルバン氏を受け入れられるのかという点だろう。

 オルバン氏は欧州の保守政治家でありながら、中国やロシアとも緊密な関係を築いている。

 まず、ロシアとの関係では、2022年にロシアがウクライナへの全面侵攻を開始した後も、オルバン氏はプーチン政権との対話を重視してきた。

 2023年10月には北京で開催された「一帯一路」国際協力フォーラムでプーチン大統領と会談。2024年7月には、ハンガリーがEU理事会の議長国に就任した直後にモスクワを訪問した。

 この訪問はEU主流派から激しく批判された。オルバン氏はウクライナへの軍事支援や対露制裁に慎重な姿勢を維持し、EU内での合意形成を難しくしてきた。反対に、プーチン政権から見れば、西側の政治家の中でも対話の窓口を維持してきた人物といえる。