北京が求める「合格答案」に
採点基準はあるのか

 9月28日の王毅氏の発言は、台湾問題だけにとどまらなかった。

 王氏は東京裁判開廷80周年に触れ、日本が戦後の「平和憲法」に挑戦すれば未来を切り開けないと警告した。そのうえで日本に、(1)指導者による台湾問題での誤った言動の是正、(2)歴史問題への正しい態度、(3)客観的で理性的な対中認識、という三つの要求を示した。

 もっとも、岩屋氏は現職の外相ではなく、日本国際貿易促進協会会長として訪中していた。「合格答案」も同協会や有識者に日本の正しい選択を促すよう求めた文脈で出た言葉であり、直ちに日本政府への正式な交渉条件とはいえない。

 しかし翌29日、郭報道官は王氏の三つの要求を引用し、今度は「日本の当政者」に実際の行動を求めた。民間団体の会長との会談で語られた要求が、翌日には外交部の公式記者会見で日本政府に向けて繰り返されたのである。

 しかも、両日の公式発表に「撤回」という言葉はなかった。

 北京が何も示していないわけではない。高市首相の台湾有事答弁については撤回または訂正を求めている。しかし、どのような訂正なら十分なのか。それは首脳会談の前提条件なのか、それとも関係の「再正常化」に必要な条件なのか。

 歴史問題での「正しい態度」とは、靖国神社への参拝を控えることなのか。「理性的な対中認識」とは、どのような政策を指すのか。

 三つの要求は方向性を示しているが、何をどこまで改めれば「合格」と認めるのか、その十分条件は明確ではない。

 ここには、日本と中国の間に非対称な関係が生まれるという問題がある。日本が一つの要求に応じても、それで「合格」と認められるとは限らない。日本側には関係改善に必要な対応の全体像が見えない一方、北京には日本の政策をその都度評価し、判断を留保する余地が残る。

 こうした状況では、首脳会談が実現しても、北京は別の問題を理由に関係改善の条件がまだ満たされていないと主張できる。

 では、日本が「合格」しない限り、日中首脳会談も実現しないのだろうか。

 必ずしも、そうとは限らない。

なぜ北京は日本が「不合格」でも
会談に応じ得るのか

 重要な前例がある。2014年11月、安倍晋三首相と習主席の会談が北京で実現した。当時、尖閣諸島と靖国神社をめぐって日中関係は冷え込んでいた。