一方で、中国側は台湾有事答弁の撤回・訂正要求も維持している。

 つまり、北京には首脳会談に応じる動機があっても、その先で日本の「合格」を急いで認める動機は弱い。

 仮に深センで首脳会談が実現しても、北京は台湾、歴史、防衛政策をめぐる要求を維持できる。APECという外交の場を活用することと、日本に譲歩することは別の選択なのである。

 ただし、2014年の四項目合意が持つ意味は、首脳会談を実現したことだけではない。対立を残したまま、政治、外交、安全保障の対話を段階的に再開する道筋も示した。

 今回も、もしAPECで首脳会談が実現するなら、その後も対話を維持できるかどうかが重要になる。そして、その試金石となるのが年末の安保3文書改定だ。

年末の安保3文書が
日中関係を再び揺さぶるのか

 日本政府は年末までに安保3文書を改定する方針を示している。安全保障環境への対応として防衛力強化を進める日本と、その動きを「再軍事化」と批判する中国との対立は、APEC後にも続く可能性が高い。

 中国が高市首相の答弁を問題視する背景には、1972年の日中共同声明をめぐる立場の違いがある。

 共同声明で日本は、中華人民共和国政府を中国の唯一の合法政府として「承認」した。一方、台湾が中国領土の不可分の一部だとする北京の立場については、「十分理解し、尊重する」と記した。「承認する」とは書いていない。

 高市首相は2025年12月、台湾に関する日本の基本的立場は共同声明のとおりで、変更していないと説明した。しかし、中国側はこれを不十分とし、答弁の撤回を引き続き求めた。

 日本にとって、台湾をめぐる外交的立場を維持することと、台湾有事に際して自衛隊がどう行動するかを判断することは別問題だ。

 一方、北京が問題視しているのは、その従来の立場の下で、日本が将来取り得る軍事的対応ではないか。日本が「立場は変わらない」と説明しても、安全保障政策そのものが争点になれば、対立は終わらない。

 そして北京は、すでに日本の防衛政策を批判するための論理を示している。

 9月2日、中国外交部は国連憲章の旧敵国条項が「依然として有効」だと主張した。1995年の国連総会はこれらの条項を時代遅れと位置づけ、中国もその決議に賛成している。それでも北京が旧敵国条項を持ち出すことには、政治的な意味がある。

 さらに10月10日、中国国防部は、日本の安保3文書改定と原子力潜水艦導入をめぐる議論に対し、「新型軍国主義」「再軍事化」「戦後国際秩序」という表現を使って批判した。

 注目すべきは、原子力潜水艦の導入をめぐる質問に対し、「非核三原則」の突破や核兵器保有の動きまで結びつけたことだ。