戦場で「理論」と「実行」を遂行できるか
優れた戦略は優れたリーダーシップと結びつく

「増補改訂版へのまえがき」で、三枝氏はプロ経営者育成の必要性と重要性について次のように記しています。

 企業の改革において、米国企業のように、意にそぐわないものをすぐ馘にして新体制に切り替えるという安易な刀を、我々日本人はできるだけ振り回したくない。そのイージーな刀に頼らない以上、日本の戦略経営者は米国人よりずっと高い経営技量を求められる。それなのに、米国の経営者ほど経営リテラシーが高くなくて、勉強もしないのであれば、経営の切れ味において日本の経営者が負けてしまうのは当たり前ではなかろうか。日本人は米国人よりも努力して戦略プロフェッショナルの技量を高めなければならない宿命を背負っていることを、我々日本人は肝に銘じなくてはならないと思う。(iVページ)

 裏を返せば、日本企業はいま、深刻な「経営者的人材の枯渇」に見舞われているということでしょうか。「失われた20年」のあいだに多くの日本企業の業績が低迷し、グローバル競争においても苦戦が続いています。崖っぷちに追い込まれているにもかかわらず、先兵となって攻めていくリーダーのプロとしての経営能力の不足が顕在化しているわけです。プロ経営者というのは、業界を問わず、どこの会社から声がかかっても短期間で状況を把握し、経営の指揮に当たり、結果を出せる人のこと。戦略プロフェッショナルの育成は、だから日本の緊急課題なのだと著者は訴えているのです。

 もしあなたが、ある日突然、広川洋一のように事業のトップに就くことを求められたらどうするか。あるいは、あなたがベンチャー事業を興して自ら社長になったとき、どんな経営方針をどうやって立てるのでしょうか。本書のテーマは「戦略論」ですが、もともとは経営者向けの戦略トレーニング・セミナー向けに、ダイヤモンド社の協力のもとにつくられた教材がベースになっています。

増補改訂に伴い新たに収録されたインタビューで著者の三枝氏が提示した図「強い経営リーダーとは」(巻末)
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 戦略ストーリーの立案から実行までの事実関係や時間軸の推移は、三枝氏の体験や経験をほぼ正確に再現していますが、ドロドロとした社内の人間関係などはあえて省かれています。それでも少し注意深く読めば、相当の迷いやストレスと闘いながら前に進んでいく主人公の忍耐強さや一徹さが感じ取れます。理論と経営現場を行き来しながら成長していくプロセスも見えてきます。戦略プロフェッショナルを目指すあなたに、企業や経営者の単なるサクセス・ストーリーからは得られない知識を植え付けてくれるはずです。

 企業戦略の基本セオリーは、どんな業界に飛び込んでも同じである。しかし、仮にいくら優秀な「企業参謀」がいても、あるいはいくら優秀な「戦略コンサルタント」を雇っても、それだけでは会社はうまくいかない。いつの時代も「優れた戦略」は「優れたリーダーシップ」と結びついてこそ、初めて大きな効果を生むからである。
 企業参謀は自ら銃をとり前線に立ち、逆に、前線にいるマネジャーは、自ら戦略参謀になることが求められている。そこで問われるのは、あなた自身の実践性、つまり戦場で「理論」と「実行」を結合できるかである。(55ページ)