「オン」と「オフ」のトレードオフ
経営者の仕事は担当者のそれとは異なる。担当者であれば、自分の仕事の領分が決められている。これに対して、自分の仕事はここからここまで、と区切れないのが経営者の仕事。必要とあらば、あらゆることに突っ込んでいかなければならない。当然の成り行きとして、忙しくなる。
前回「ハンズオン」という話をした。ハンズオンで仕事をする。これが優れた経営者の要件であるとすれば、経営者はなおさら忙しい。
ところが、優れた成果を出している経営者を眺めていると、忙しくてきりきり舞いしているような人はあまりいない。もちろん、実際は忙しいのだろう。しかし、相対していると、優れた経営者ほどむしろ時間的なゆとりを感じさせるものだ。
前回も登場していただいた藤森義明さん(元GEの上席副社長、現在は住生活グループの経営をなさっている)。ずいぶん昔に彼から聞いたGE時代のエピソードがある。藤森さんのボスがジャック・ウェルチさんだったころのこと。ウェルチさんと直接会って話をする必要が生じる。すると、思いのほか簡単にアポイントメントが取れたという。巨大企業のCEOともなるとスケジュールがガチガチで、短い時間をとるのもはばかられるのが普通。ウェルチさんとのアポがすんなり取れることに、藤森さんははじめのうちは驚いたという。
人間としてのキャパシティが大きい、器がデカいということもあるだろう。集中力が抜群で、一定の時間に普通の人よりも何倍も密度の濃い仕事ができるのかもしれない。しかし、優れた経営者といえども人の子である。スーパーマン、スーパーウーマンなわけではない。だとしたら、答えは一つしかない。「何をやらないか」がはっきりとしているということだ。つまり、「ハンズオフ」である。