堀江 ちなみに蜷川さんの「すくすくコンプレックス」は、もう克服できたんですか?
蜷川 できました。ようやく。
堀江 もう大丈夫?
蜷川 うん。客観的に見ても、克服できてると思う。
堀江 克服するまではけっこう長かったんですか?
蜷川 『ヘルタースケルター』をつくる前くらいまであったんじゃないですかね。
堀江 ええーっ、そうなの?
蜷川 長いでしょ? でも、けっこうな呪縛だったから、あのころまではあったと思う。もちろん、そのコンプレックスのおかげで頑張ってこられた面もあるんですけどね。
堀江 でも、たしかにいまはもう「蜷川幸雄の娘」じゃないよね。知名度でいっても、お父さんと並んでると思う。
蜷川 うーん、知名度はどうなんだろう。若い世代ではそうなのかも、というくらいじゃないかな。
堀江 そこはまだ追い越したとは思ってないんだ?
蜷川 やっぱりうちの父親って仕事人としてすごいから。いまだに尊敬してるし。それに、いつか追い越そうって思ってたほうがいいでしょう?
堀江 そういう若い子たちへのメッセージみたいなものは、作品を通じて発信してる感じなんですか?
蜷川 そうですね、たとえば『ヘルタースケルター』なんかは、あんなにスキャンダラスな映画なんだけど、いちばん言いたかったのは「自分の人生は自分で決めよう」ってこと。自分で決めて、責任も引き受けて、一歩ずつ進んでいこうねって。やっぱり「自分で決めたこと」って強いじゃないですか? 言い訳できないし。でも、人に「これをやりなさい」って決められたことは、責任感も出ないしずるずる逃げやすくなる。
堀江 たしかにね。
蜷川 だから自分で決めようね、って。
堀江 言い訳しないために。
蜷川 うん。言い訳する人はみっともないよ。