大学通算33勝無敗の男
則本は、高校時代に甲子園出場経験はない。大学も野球では無名の三重中京大学だ。
大学時代は通算33勝無敗、防御率0.56という驚異的な成績を残したというが、所属するのがマイナーな三重学生野球リーグだったこともあって、中央球界ではさほど注目されなかった。
言うなれば、雑草である。
それゆえ、則本にはおそらく、東京六大学をはじめとする有力リーグ、有名校出身者に対するコンプレックスがあったであろうことは想像に難くない。
私自身がそうだったから、よくわかる。
自分が注目されないことに強烈な悔しさを感じていたはずだ。
則本はその気持ちを、私同様「エリートに負けてたまるか!」という大いなる反骨心に変えたに違いない。彼の面構えとマウンド度胸からは、そういう強い気持ちが伝わってくるのである。
則本はバッターを怖がって弱気になることがない。
いつも闘争心を全身にみなぎらせ、逃げることなく向かっていく。
日本シリーズMVPは則本だ!
クライマックスシリーズでのピッチングを見た私は、自分が監督ならば、「日本シリーズ用の1イニング限定のクローザーとして則本を使うだろう」と考えたものだ。
実際、則本は王手がかかったシリーズ第5戦、2点リードの6回からリリーフで登場。
9回に同点にされたものの、気迫のこもったピッチングを展開し、勝利を引き寄せた。
第7戦でも二番手として7回から登板。2回をきっちり抑えて3点リードを保ったまま田中へとつなげ、日本一のお膳立てをした。
今シリーズの命運を分けたのは第5戦だった。
楽天に勝利をもたらしたのは、則本の闘志全開のピッチングだったと言っていい。
その意味で、MVPは則本だったと私は思っている。
少なくとも楽天球団は、彼を発掘したスカウトにボーナスを出すべきだろう。