岸見 私は安藤さんと違い、若いうちは、どちらかというと親の期待や普通の人生にこだわっていました。でも、大学院を出ても就職できず、常勤の精神科に勤めるようになったのは40歳のときでした。しかも、そこもすぐ辞めてしまい……。

安藤 そうだったんですか。

岸見 でも、そういう自分でもいいじゃないか。自分の人生を生きるためなら、狭い共同体にとらわれずそこから出て行ってもいいじゃないか、と決心をしたんですね。他者に貢献し、今この瞬間に幸せになるためには、場所や状況は関係ないのだと。

安藤 一歩を踏み出す勇気があれば、人はすぐにでも幸せになれる、と。

岸見 もちろん、今いる共同体から逃げればいいというものではありません。ただ、自分がやろうとしていることが広い意味での他者貢献だという意識があれば、どこにいたって自分の居場所を持つことはできます。より他者に貢献する機会がある場を求めて新しい場に移って行くのは逃げではない。

安藤 フリーランスだから、会社員だからというのも関係ないということですね。

岸見 そうです。その決心が「導きの星」となり、それさえ見つめていれば、どこにいても迷うことはない。導きの星を基準にして生きるのが自由な人生なんだということです。病気になって働けなくなった人の人生は不幸でしょうか? 私は違うと思います。それでも自分で人生を選び取っていく勇気があれば、その瞬間に幸せになれると思うんです。ですからフリーランスだとか、会社員だとか立場や状況で自分の人生の価値を決めるのはおかしい。どんな状況でも自由に生きることができるはずです。

安藤 先生に励まされているようで、涙が出てきそうになりました。『嫌われる勇気』はアドラー心理学の一部を凝縮したものだと思うので、ぜひ、続編を読みたいです。

岸見 シンプルなのに深いのがアドラー心理学の魅力です。たとえばテニスでは、ウィンブルドンに出場できる人はごくわずかです。しかし、ラケットで打ち返すという基本動作は少し練習すれば誰にでもできるようになりますし、ウィンブルドンに出場しているのはそれを続けてきた人ばかりなのです。だから、何事でも、まずはできることから実践して続けてほしいと思っています。続編ですか……(笑)。「青年」が成長して恋愛し、子育てをするという話も面白いかもしれないですね。

安藤 読みたいです。ぜひお願いします!

岸見 わかりました(笑) 考えてみましょう。

(おわり)
前編中編も読む)


【編集部からのお知らせ】

岸見一郎/古賀史健著『嫌われる勇気──自己啓発の源流「アドラー」の教え

【内容紹介】

【安藤美冬×岸見一郎 対談】(後編)<br />「嫌われる」ことは、自分の人生を生きることだ定価(本体1500円+税)、46判並製、296ページ、ISBN:978-4-478-02581-9

 世界的にはフロイト、ユングと並ぶ心理学界の三大巨匠とされながら、日本国内では無名に近い存在のアルフレッド・アドラー。

「トラウマ」の存在を否定したうえで、「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と断言し、対人関係を改善していくための具体的な方策を提示していくアドラー心理学は、現代の日本にこそ必要な思想だと思われます。

 本書では平易かつドラマチックにアドラーの教えを伝えるため、哲学者と青年の対話篇形式によってその思想を解き明かしていきます。

【本書の主な目次】
第1夜 トラウマを否定せよ
第2夜 すべての悩みは対人関係
第3夜 他者の課題を切り捨てる
第4夜 世界の中心はどこにあるか

絶賛発売中![Amazon.co.jp] [紀伊國屋BookWeb] [楽天ブックス]