将棋は勝てないから
面白い

長谷川敦弥(はせがわ・あつみ)
株式会社ウイングル代表取締役。名古屋大学理学部を休学し、焼肉店店長やITベンチャー企業のインターンを経て卒業、2009年より現職。障害のある方を対象とする就労支援センターや子ども一人ひとりの状況に即したオーダーメイドの幼児教室・学習塾を全国展開する。ウイングル http://www.wingle.co.jp/

長谷川 将棋をじっくりやる「きっかけ」は何だったのですか?

羽生 週末の買い物ですね。実家が街から離れていたので、週末になると家族で1週間分の買い物に出かけていました。その時、私は地元の将棋道場で将棋を指して、買い物が終わった頃に家族が迎えに来たら帰るという、そういう生活だったんです。

長谷川 夢中で将棋を指していて、家族から「もう帰るよ」と言われるのは嫌ではなかったですか?

羽生 そのようなことはありませんでした。だいたい3、4時間くらいありましたから。子どもは熟考せずに感覚でパッと指すので、それだけの時間があれば相当な数指せるんです。だから時間が足りないという感じはしませんでした。

長谷川 なるほど、ある意味親御さんのいない中で、自由に将棋を指せる「まとまった時間」というのが定期的にあったというわけなのですね。
最初から将棋に対して「これは面白いぞ」という感覚があったんですか。

羽生 いや、どう言ったらいいんですかね。「よくわからないけれど、面白い」と思いました。しばらくやっても、全然コツがわからなかった。そのことが夢中になるきっかけだったのかもしれません。

長谷川 しばらくというのはどれぐらいですか。

羽生 1ヵ月くらいでしょうか。当時、ボードゲームがいろいろ流行っていたんですね。例えば「ダイヤモンドゲーム」とか。そういったゲームは、何度もやっていくうちにルールはもちろん、勝ち方もわかってきます。そうなってくると、次第に飽きてきたりしますよね。でも将棋はそれがまったくなかった。そこが大きかったですね。

長谷川 勝てなくても面白かった。だから嫌になったり飽きたりしなかったと。

羽生 そうですね。負けても面白いところがあったからだと思います。