【重工3社対決】三菱重工・川重・IHIがそろって最高益!防衛と航空が絶好調、その先で求められる「攻めの一手」とは?Photo:SOPA Images/gettyimages

三菱重工業、川崎重工業、IHIの「重工3社」が2025年3月期、そろって最高益をたたき出した。防衛と航空の追い風に乗り切った結果だが、企業が自らつかんだ成長とはいえない。政府の防衛予算の増加や民間航空需要の回復といった外部要因が大きいのだ。3社とも今後、本当の実力や「攻め」の姿勢が問われることになる。特集『激動!決算2025』の本稿では、空前絶後の好況と“その先”を考察する。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)

最高益でも問われる“成長投資”の有無
決して安泰ではない重工3社の現在地

 重工業界がバブルに沸いている。2025年3月期の決算で、三菱重工業、川崎重工業、IHIの「重工3社」がそろって過去最高益を記録したのだ。株価も軒並み急騰し、三菱重工の時価総額はこの2年で約6倍、川崎重工やIHIの株式も高値圏を維持している。

 だが好調は、企業自らの「攻めの戦略」が実を結んだ結果といえるのか。結論からいえば、否だ。政府の防衛予算の急拡大と航空エンジン需要の回復という市場環境の追い風が、増益要因の大半を占めているのだ。本質的な競争力の向上や、成長戦略の裏付けがあるかと問われれば、まだその答えは見えない。

 重工3社の業績拡大をけん引したのは、第1に防衛需要だ。22年末に政府がGDP(国内総生産)比2%の防衛費を打ち出し、防衛力整備事業費は従来比1.6倍の43兆円に。この抜本的な政策転換が、各社の受注環境を劇的に変えた。

 さらに25年3月期決算は、この防衛費の大幅増額が初めて企業の収益に本格的に反映された決算でもある。三菱重工の小澤壽人CFO(最高財務責任者)は決算説明会で「25年3月期では防衛部門の収益の半分で利益率が向上した『新条件』の契約に切り替わった。26年3月期は8割が新条件となる」と述べ、防衛予算増が収益に直結している実感を語った。防衛費拡大により企業は量産前提の長期契約を獲得しやすくなり、従来は8%程度にとどまっていた防衛装備品の営業利益率が、23年度以降の「新条件」では15%前後まで改善している。

 三菱重工の防衛・宇宙部門は、25年3月期に前期比36%の増収、受注見通しも当初より9000億円上振れし約1.9兆円に達した。川崎重工の売上収益も約5600億円で前期比約4割増。IHIも22年度に1000億円規模だった防衛事業の売り上げを30年度までに2500億円規模まで拡大する目標を掲げている。

 さらに、民間航空機需要の回復により、各社の航空エンジン事業も息を吹き返した。コロナ禍で壊滅的打撃を受けたこの分野は現在、プラット・アンド・ホイットニーやGE、ロールスロイスとの国際共同開発を通じての急回復の最中だ。

 だが、ここで冷静に問いたい。これらの利益は、本当に企業自らの挑戦による果実なのか。防衛にしても、航空にしても、企業が先手を打ったわけではない。政府の予算が拡大されたこと、世界的な需要が発生していること──あくまで外部要因で利益が押し上げられた格好だ。もちろん、その波に乗れる体制を整え、市場環境に順応した点は評価されるべきだが、「風が吹いた」というだけで、真の実力が測れるわけではない。

 とりわけ防衛分野は、価格決定も納期も国側に主導権がある構造だ。収益性は改善したものの、恒久的に保証されているわけではなく、将来的な政策転換や予算制約が生じれば、企業側の収益構造は一気に揺らぐことになりかねない。

 次ページでは、重工3社の防衛部門と航空エンジン部門の受注高推移を示すとともに、能動的に成長をつかむために求められる行動を考察する。