つまり気遣い型やオンデマンド型の営みで顧客満足を高めていくには、パターン別の適切な対応のルール化(マニュアル化)、およびその社内徹底がカギになります。無印良品のV字回復に尽力された松井忠三氏(現会長)が、2001年の社長就任後にまず取り組んだのは、賃金カットでも事業縮小でもなく、「個人の経験や勘に頼っていた業務を“仕組み化”し、ノウハウとして蓄積させること」でした※1。店舗出店の是非や店頭のディスプレイ作りのような、判断する上で高度なセンスや専門性が問われるように見える作業まで、できる限りの業務をマニュアルに落とし、マニュアルに沿った仕事の習慣を根付かせたことが業績改善のカギだったと言います。

単なる足し算ではなく
「割愛」でおもてなしを際立たせる

 おもてなし以外の部分に注意を傾ける重要性を長々とお話しましたが、それでも「自社はおもてなしで勝負するんだ!」とおっしゃる企業は少なくないでしょう。ただその場合でも「何でもかんでも」ではなく、おもてなしで勝負する部分を賢く絞り込んでいって欲しいものです。

 というのも、企業側が心を込めて提供したつもりのおもてなしも、顧客側では一部しか価値を感じていない事態がよく起こります。時々、「おもてなしは相手に対する自発的な思いやりから生じる行為であって、相手の満足を最初から期待してはいけない」とお叱りをうけるのですが、私的な人間関係ならそれでも良いでしょう。でもビジネスである以上、おもてなしが顧客満足につながり、顧客のリピート利用や口コミによる集客効果につながって、最終的に利益貢献しているかを自問しなくてはなりません。

 早くからそうした合理的な考えで経営に取り組んでいる企業に、一泊5千円前後の低料金でありながら業界トップクラスの顧客満足度を獲得しているスーパーホテルがあります。同ホテルが掲げる経営手法の1つが「割愛」です。多くのホテルは顧客満足度を上げるために「どれだけ多くのサービスを提供するか」の経営努力に邁進しがちですが、同ホテルのサービスは顧客視点での取捨選択が徹底されています。

 まず同ホテルでは、主要利用客であるビジネスパーソンにとってホテルの快適度を決める最大要素は睡眠だと考え、「スーパーホテルは安眠と快眠ではどこにも負けない」とばかりに、ベッドの大きさや部屋の防音性、枕の素材や高さ(顧客は多数の選択肢から自分の好みの枕を選べる)には徹底してこだわってきました。その一方で「100人のお客さまのうち、一人しか困らないサービスは切り捨てよう」と、顧客満足にあまりつながらないサービスは割愛してきました。例えば同ホテルでは、

・部屋に電話がない(顧客は携帯電話を持っているので不要)
・部屋にミニバーがない(顧客は自販機やコンビニで購入するので不要)
・部屋のキーがない(暗証番号で入室してもらう)
・チェックアウト手続きが要らない(前払い制で、電話もミニバーも精算不要のため)

 といった割愛が実行されています。

 このように書くと、徹底してコストを削った味気ないホテルのように思えるかもしれませんが、徹底的にマニュアル化を進めたうえで、残された数少ない顧客接点でのおもてなしに力を入れているのが同ホテルの素晴らしいところです。同ホテルの山本会長は自社の従業員に対して、

「おもてなしとはマニュアルを超えたところに生まれるもの」

「お客さまが望んでいることを察知して用意する…(中略)…『お客さまのために何ができるか』を考え実行していくことで、はじめて感動を呼び起こすおもてなしが実現できる」

「スーパーホテルは『みんな』よりも『ひとり』を大切にする」

と、まさに本コラムが書いてきたおもてなしの考え方を、熱心に指導されているようです。※2実際に同ホテルを訪れてみると、従業員がいつも笑顔で元気に挨拶してくれるのはもちろん、会話する際には利用客をきちんと名前で呼んでくれます。私自身は利用回数も少ないので、まだ同ホテルで「これぞおもてなし!」という程の体験はしていませんが、従業員の接客ぶりを見ていると「いざという時は親身になって動いてくれるだろう」と確信が持てるホテルの1つです。

※1 松井忠三著「無印良品は仕組みが9割 仕事はシンプルにやりなさい」(角川書店)
※2 山本梁介著「1泊4980円のスーパーホテルがなぜ『顧客満足度』日本一になれたのか」(アスコム)