
作品の随所に過去作品の要素がちりばめられた『ガンダムGQuuuuuuX(ジークアクス)』。作品を通して若年層と高齢層のファンの交流や、放映時には生まれていなかった若者が1作目のガンダムを初めて見るきっかけが生まれることになった。こうしたムーブメントはどのようにして設計されてきたのか。特集『ガンダム・ジークアクスの舞台裏』では、前編に続いて監督の鶴巻和哉氏に聞いた(聞き手/ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
10代から60代顧客まで「全取り」を狙っていたジークアクス
ガンダム過去作と新規ファンをつなぐ最初のきっかけにしたかった
――そもそもなのですが、今回の作品「ジークアクス」は、誰に届けようと考えて作られたものなのでしょうか。
主人公である女子高生のマチュと同年代の若い人にも届けたいし、その一方で、ガンダムというコンテンツは45年前からある巨大なもので、当時から見ている人はもう60歳を過ぎていて、そういう人たちも当然狙いたい視聴者層であるわけです。
ガンダム市場は巨大で、アニメは見ていないけど、ガンダムのプラモデルだけ作っている層もいる。アニメを見ている人の中にも、宇宙世紀ファンもいればSEEDやウィングやダブルオー、鉄血や水星の魔女が好きな人もいて。そこをわざわざ「ここの層だけ狙います」と限定するのはもったいない、なるべく「全取り」したいと思っていました。せっかくガンダムをやる以上、いずれの層にもなにかアピールして興味を持ってもらいたいなぁと。
――テレビ放映1話分30分の尺の中に、ここの構図はZガンダムのこのシーンだとか、このBGMと効果音はファースト(ガンダム、1979年公開の1作目の『機動戦士ガンダム』のこと)のこのシーンだったとか、歴代のガンダムのあらゆる情報がぎっしり詰め込まれていました。さらにそこに新しい主人公たちの物語が絡む濃密な内容で、リアタイ(リアルタイム視聴)勢は、毎週火曜日の深夜に寝不足になりながら追いかけていました。あれはいったい、どうやって設計したのでしょうか。
今回のクリエーティブチームはみんな、相当がっつりガンダムを見てきているんですね。庵野は当然そうですし、僕も脚本の榎戸も庵野ほどではないかもしれないけれど、庵野と互角にわたりあえるぐらいのガンダムの知識量がある中で、あの作品が作られている、というのはある。
そして、ガンダムはずっと新作が作られ続けている巨大コンテンツで、これまでの蓄積も膨大にあるので、なんとかうまくそれを武器にできないかなと思っていました。まったく別の世界線のオルタナティブで作ることもできましたが、僕も古い宇宙世紀ガンダムのファンだし、せっかく作るならこれをテーマにしたかった。40年前からガンダムを見ているオタク層の人たちから見たら、いろいろとダメなところもあると思うけど、そういう人たちともやり合えるようなガンダムを作ろうと思っていました。
10代の学生から還暦超えのシニアに至るまで、新旧のファンを広く捉えたジークアクス。実は、今の時代ならではの、世代をつなぐためのある仕掛けがうまく作用したという。ガンダムシリーズとしては歴代2位という好成績で終わった映画も、実は想定外があったといい…。次ページで詳しく見ていこう。