高齢化が進む中、病院や介護施設ではなく「自宅で最期を迎えたい」と考える人が増えている。そのために不可欠なのが、在宅医療。往診してくれる医師や看護師、ケアマネジャーが連携し、24時間365日、相談できる体制をつくること。これを実現するため、東京と宮城県・石巻で在宅医療を手がける医師の物語。一見、相矛盾する要素を兼ね備え、圧倒的な価値を生み出す“バリュークリエイター”の実像と戦略思考に迫る連載第4回後編。

※この記事は、GLOBIS.JP掲載「大学病院、戦略コンサルタントを経て、高齢者の笑顔を選んだ医師 後編―武藤真祐氏(バリュークリエイターたちの戦略論)」の転載です。

エリート医師は、戦略コンサルタントを経てなぜ、激務の在宅医療を選んだのか? ――祐ホームクリニック 武藤真祐氏(前編)を読む

 すでに高齢化社会となった日本で、ニーズが高まる在宅医療。住み慣れた家で家族と一緒に暮らしながら、信頼できる医師や看護師にみてもらいたい。高齢の患者が持つ「当たり前の希望」をかなえるべく、4年前、東京に「祐ホームクリニック」を開設し地域で在宅医療を始めた武藤真祐(むとうしんすけ)。3年前、震災被害に遭った宮城県石巻市にも在宅医療の拠点を作った。

 患者や家族のことを第一に考える――。医療従事者なら誰もが考える理想を事業として実現し、日々の業務として実行していく。これを可能にしたのは武藤が言う「大変なことをやってくれる周りの人たち」。「僕も調整や働きかけはしますが、主体的に動いて不可能と思われることも実現してしまう」。一例は、事務局長の園田愛だ。

驚異的な実行力で支える
右腕の存在

 2011年9月、在宅療養を支援するための診療所、祐ホームクリニック石巻が開設した。東京で培った在宅医療のノウハウを生かして医療を提供している。震災から半年弱経っても、高齢化が進んだ土地には、孤立し、必要最低限の生活も難しい中、じっと耐える人々がいた。彼・彼女達を助けたい。その一心で先頭に立って動いたのが、園田だった。全く土地勘のない中で、準備期間に通常1年かかると言われる中2ヶ月で、建物を立て、スタッフを集め、行政と交渉し、地域と深く関わりながら診療所の立ち上げにこぎつけた。

 行動力、実行力、「お年寄りは、もっと優しくされていい」と願う情熱を兼ね備えた園田は、自身が社会起業家として一国一城の主になってもおかしくない。大学では経営学を専攻し、卒業論文では高齢化社会を扱った。就職先は医療関連のコンサルティング会社。そんな園田が武藤と深く関わったのは、2007年。武藤と構想して立ち上げたNPOヘルスケアリーダーシップ研究会の活動を通じてのことだった。2年後の2009年夏「会社を辞めて独立しようと思っている」と打ち明けた園田に、武藤は笑顔で言った。「いいね。僕が最初のクライアントになるよ」。じっくり話をするうちに、園田は「自分が考えていたのは武藤さんの構想の一部分だと気づき、武藤さんの事業を手伝うことにしました」。